銀魂短編
□特別の特別
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【2012年・銀時誕生日記念】A
※こちらのお話は、『特別』の続きです。
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3人で賑やかに過ごした後、今日は銀時の誕生日だから特別にと神楽が気を利かせて志村家へ泊まりに行った。
なので現在万事屋には銀時と新八の2人きり。
先程、久しぶりに2人で仲良く一緒に風呂に入ってきた。
数時間前までの賑やかさとは打って変わって、今の万事屋には2人きりの穏やかな時が流れている。
湯上りの2人は和室の照明を消して壁に寄り掛かって座り、開けた窓から共に月を見上げている。
と言っても実際に壁に寄り掛かっているのは銀時だけであり、新八は銀時に向かい合う形でその胸元に寄り添っている。
今日という特別な日が醸し出す雰囲気のおかげか、銀時へ甘える新八は素直だ。
ピタリと銀時の胸元へ頬を寄せ、その顔には穏やかな笑みを湛えている。
そして銀時は、そんな新八がどうしようもない程に愛おしい。
その大きな手で新八の頭を優しく撫でつつ、空いた手でギュッと新八の身体を自身の方へ引き寄せている。
暫く無言でお互いの温もりに浸っていた2人だが、新八が静かに声を発した。
「・・・銀さん。実は今日お酒も頂いたんですよ」
「んあ?誰から?」
「お登勢さんです。昼間銀さんが出掛けてた時に、わざわざ持って来て下さったんですよ」
そう言って新八が台所から持ってきた1本の酒瓶。
それはそこそこに値段の張る上等な日本酒だった。
普段銀時が飲む安酒とは全く格の違う代物だ。
「・・・あれ。これ結構いいやつじゃん」
「そうなんスか?明日にでもちゃんとお礼言って下さいね」
「んー、まぁその内な」
返ってきたのは生返事。
本当にお礼を言うつもりがあるのかどうか、全くもって疑わしい。
そんなどうしようもなくマダオな銀時に呆れつつも、新八は盃にそっと酒を注いでやる。
「お?酌してくれんの新ちゃん」
「今日だけ、特別です」
「マジでか。
・・・なぁ、お前も飲まねぇ?せっかくだし乾杯しようぜ」
「でも、僕未成年ですから・・・」
未成年と言えど家で少し飲むぐらいは問題無いだろうと銀時は思うのだが、新八は真面目だった。
自分は酒には手をつけず、傍で銀時の酌だけを世話してくれるつもりらしい。
だがしかし、それでは何となく物足りないと銀時は思った。
どうせなら自分だけではなく2人で乾杯できた方が良いと思うのだ。
「しょうがねぇなァ。じゃあお前はソフトドリンクな」
「でも、ウチにそんな物無いですよ?」
「俺のイチゴ牛乳があるだろ」
銀時の思いがけない提案に新八は驚いた。
普段の銀時は、イチゴ牛乳はおろか飴玉1つすら他人に分け与えようとはしないのだ。
「・・・今日は特別だ。早く取って来い」
「ありがとう銀さん。じゃあ、お言葉に甘えて」
新八は人の気持ちや心遣いを読み取る能力に長けている。
今もこうして、せっかくの機会だからと思ってくれている銀時の好意を、素直に喜んだ。
早々とコップにイチゴ牛乳を注いでは嬉しそうに戻ってきて、また銀時にくっついて座った。
「そんじゃ、乾杯」
「乾ぱーい」
盃とコップが、カチリと音を立てた。
お互いの顔を見て微笑み合い、それぞれの飲み物へ口をつける。
「銀さん、お酒の味はどうですか?」
「ん?やっぱ高ぇだけあって口当たりが良いな。これなら多分悪酔いもしねぇわ」
「そうですか。良かったですね、銀さん」
「まぁな」
こうして月明かりの下で酒を嗜む銀時は、普段の様子からは考えられない程に色気を帯びていると新八は思った。
ボンヤリとそちらを見上げていると、銀時と目が合った。
「どうした?」
「・・・銀さんって、以外とカッコイイですよね」
「何だよ、今頃気づいたのか?俺ァいつでもカッコイイでしょ新ちゃん」
照れて慌てるわけでもなく、気障に振る舞うわけでもなく、いつもと変わらず戯ける銀時。
月明かりに照らされて纏う雰囲気が少しだけ違ってはいるが、その中身は確かにいつもの銀時なのだと思うと、新八は何故だか泣きたいほどに安堵した。
そんな心境を銀時に悟られたくなくて、一旦傍から離れるべく立ち上がろうとする。
「オイ、どこ行くんだ」
「・・・お酒のアテ、探してきます」
それらしい言い訳もしてみるが、銀時の腕にしっかりとホールドされてそれは叶わなかった。
「・・・アテだったら、ここにお前が居るだろ。だから何処にも行くんじゃねぇよ」
ついさっきの戯けた様からは一変。
真剣な表情で新八を腕の中に閉じ込めるなり、その小さな唇に優しく口づけた。