菜の花のお話

□─人々の幸せ─
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サンタクロース。

私が世界中の人々に幸せを届けるようになったのは、きっとあの時の出会った不思議な少女のおかげだろう。

あの日はとても空が綺麗だった。星は光り輝き、月は世界を優しく包み込んでいるかのように光りを放っていた。
私が空を見上げながら感嘆していると、目の前に純白のワンピースを着た少女が現れたので驚き、目を見張った。

それは、天使の降臨のようだった。

長く艶やかな金髪に、青色の澄んだ目。純白のワンピースを着た少女はとても美しく、それでいてどこか幼く見えた。
少女は私の目の前で止まりにっこりと微笑んで、胸に手をあて、私に向かい深くおじきをした。
私は少女の美しさに言葉を失っていたが、意識は現実に戻り、少女の正体を問う。


「…貴方は?」

「私は、ミス・スタールーンと申します」

「ミス・スタールーン…?」


聞いたことのない名前。そもそも空から降りてくる少女など聞くはずもない為、当然のことだろうと自分を納得させ、再び少女に疑問を問う。


「ミス・スタールーン。貴方は一体何なのですか?私に一体何の用があるのでしょうか?」

「私はこの空に光る星の一つ。心の中に"誰かを幸せにしたい"と願う人間に力をさずけることができます」

「…?」

「貴方の心の中には誰かを幸せに出来る能力を秘めており、貴方自信、誰かを幸せにしたいと願っているはずです。違いますか?」


少女にそう言われ、私は驚いた。私はそんなことは思っていない。でも、人が幸せそうなのを見ると嬉しいし、不幸な人が多いより、幸せな人が増えればいいと思っている。でもそれは、当たり前のことなのではないか。
私が黙っていると、少女はゆっくりとうなずいた。


「少し、自覚があるようですね。気づいていないだけで、貴方にはとても大きな力が秘められております。それを使うか使わないかは貴方の自由ですが、一度そう決めてしまうと、もう後には戻れません。力を捨て、普通の人間として残りの時間を生きるか、その力を引き出し人々に幸せを届けるのか。ご判断は貴方にお任せいたします」


少女はそう言い放つと、それ以上は何も言わなかった。
私の心の中で、答えはすでに決まっていた。それ以外の選択はきっと無いのだろう。
私はもう一度だけ空を見上げ、綺麗な星や月を見た。
そして、しばらく見た後少女の視線を戻し、少女の目をしっかりと見つめ、結論を伝える。


「私は…人々を幸せにすることを望みます」


私の答えを聞いた少女は、甘く優しい笑みを浮かべ「わかりました」と呟く。


「ミス・スタールーンの名において、貴方を今日、12月25日に力を授けます」


少女がそう言うと、空にすごい数の流れ星が流れる。
私は今まで見たことのない光景に驚き、言葉を失う。


「彼に秘められし、大地の力よ…今こそ力を解き放ちたまえ」


そして私はまばゆい光に包まれた。
その時、とても優しい声が聞こえた気がした。


『やはり貴方はその道を選んだのですね…。これから、人々を幸せにしてくたざい…』


──甘く、とろけるような優しい声だった。






あれからいくつもの年月が過ぎ、私は何年もの間人々を幸せ届けてきた。
あの時出会ったミス・スタールーンとはあれ以来会っておらず、どこにいるのかもわからない。
私は時々空を見上げ、星を見ては、あの少女の顔を思い出す。


今年も雪が降り、あの日がやってくる。
よし、今年も幸せを届ける準備をしなくては。


私はあの時のミス・スタールーンのように甘く優しく微笑んだ。

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