菜の花のお話

□―自分と言う存在―
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私は、生まれて来てはならない存在でした。

この世に生を受け、鼓動を鳴らす前から、私は呪われた子として生まれることが決まっていたのです。
生まれてからも私はあらゆる人に嫌われて生きてきました。
幼い頃から強力な力を持ち、未来を予知すると言う特殊能力すらも身に付けていました。
そのせいか、私は誰がどう死ぬのかもわかってしまうのです。
幼い私はそれを口にしてしまうことが多々ありました。
そして、その予言があたる度に「お前が殺した、お前は人殺しだ」と言われ続けたのです。
どこに行っても私は一人でした。


次第に私は嘘で自分を取り繕うことを身に付けました。
ひたすらいい人間であることを装い、人々を騙しました。
そのおかげで、呪われた子だと言うことが知られなくなり、一人の人間として接してもらえるようになったのです。

それは私にとって、幸せな日々であったのでしょうか?

いいえ、とんでもない。
嘘で自分を取り繕う度に心が削られ、いつかバレるのではないかと毎日不安に震えました。
しかし、何度も何度も重ねてきた嘘。今更本当の事など言えるはずがありません。
私には"死"という逃げ道などありませんでした。
いくら喉を引き裂いてもただただ醜い血が流れるだけで、この心臓は止まってくれやしないのです。
そんな私に救いなど、神様は与えてくれませんでした。
神からも見放された私に、何の生きる価値があるのでしょうか。
私は一体何の為に生きているのでしょうか。

誰に問いただしてもわからないこの問いは、終わらないフーガのように永遠続くのです。

私はとても我が身を憎みました。この能力を持ったせいで。
しかし私には、それに対して文句など一つとして言えなかったのです。
それは一体誰に言えばいいのか。

どうしようもない苦しさに首を締められ、私はもうなにもかもに疲れました。
私の心はぼろぼろになり、今にも崩れてしまいそうでした。
町行く幸せそうな人々を見るたび、憎悪が心を染めて行くのです。

自分の中に秘められ、渦巻くこの感情は一体なんだろう。


これは一体誰に対するものなのか。
ずっとずっと嘘をついていたせいで、自分と言う存在がよくわからない。
私はどんな奴だ。何を考えている。
この呪われた身はもはや誰のものであるかも曖昧でした。自分は心を崩し、他人の為だけに生きる。
これは人間として生きていると言えるのだろうか。
しかし今更。今更。何も出来やしない。何も。
この身として生まれてきたのが罪であり、その罪は一生消えない。
私は死ぬことは許されないのだから。


今年もあの日が来る。


町に幸せが溢れ、賛美歌が流れるあの日が。
──クリスマス。
私はその日が一番大嫌いだった。
どうやっても幸せになれない。
町に流れる賛美歌が心を苦しめるあの日が。



今年もあの日がやってくる。



私の大嫌いなあの日が────。

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