□高杉晋助について行く
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柔らかな陽射しがまぶたの上に降ってきて、祈るようにそっと目を開ければ今日も変わらない。いつもと同じ光り輝く世界が広がった

朝も夜も絶えることなく賑わうこの街はとても綺麗だ。どんなに汚れてしまった者でもはぐれて行き場を失って彷徨う者でも、誰だってこの街は受け入れてくれる。そうしてまた、昔に視ていた輝く世界をもう一度視せてくれるんだ。私がこの街に来てどれくらいが経っただろう。ずっと昔から居たような、昨日来たばかりのようなふわふわした感覚ばかりが頭を揺らしてはっきりとした答えは出てこない。此処に居て幸せなのか不幸せなのか、それだって本当のところはよく分かってない。そんな思考の中でもひとつだけはっきり想えることがあるとすればそれは、世界はこんなにも綺麗なのになぜかとても冷たく感じるということだろう

正確に言えば、世界が冷たいのではなくて私が冷たくなっている。昔なじみの友人と話していても、沢山の人に囲まれていても、賑やかで楽しくて笑顔の絶えない日々を過ごしていても、どこかがぽっかりと開いているみたいに急速に冷えていく心を私はどうすることもできないでいる。朝、目が覚めて色とりどりに溢れる世界を視界に映すたびに息が詰まった。こんなにも綺麗な世界の中にどうして貴方だけが居ないのだろう。私が口にしなくても貴方の名前は耳に入ってくる。そのどれも、良い噂ではないけれど。昔から私と彼をよく知る友人達は、どこからともなく流れてくるその名前と噂を耳にするたびに私のもとへとやってきては私の心をそれから逸らそうとわざとにふざけた騒ぎを起こして私を笑わせてくれる。ありがとう、言えばなんのことだか解らないふりをするからいつからか私も言葉にはしなくなった。代わりに目一杯笑ってた。貴方が傍に居なくても私の周りには私を想ってくれる人が沢山居るし、なんだかんだ毎日笑いが絶えることはないし、お腹も空くし眠くもなる。端からみれば私は幸せと呼ぶ以外にない毎日を過ごしているんだって思う

でも、でもね。それでも満たされないのはやっぱり貴方が居ないからなんだよ。毎日どれだけ楽しく過ごしていたって晋助を想った時以上に幸せで満たされることなんかない。貴方はいま何処に居ますか。夜になると期待せずにはいられない。貴方が私を連れにくるのだと考えずにはいられない。だって貴方は誰よりも夜が似合う人だから。毎晩同じ思考を張り巡らせては叶わないとどこかで諦めながら眠りについた。今夜も同じはずだった

「よぉ」
開け放った窓の向こうには何百回、何千回と頭に浮かべた姿があった。眩暈がする
「ククッ、てめぇを攫っちまったらいよいよ奴等にゃ嫌われちまうなァ」
悪びれる様子もなく言う彼の言葉が私を捕まえて離さない。声を出すのも許してはくれない
「今夜は満月なんだぜ。俺がお前を攫うには絵になる夜だと思わねぇか」
煙管を吸いながら片手を差し出す。いつもは夜でさえ賑やかなはずのこの街が今日はなぜだか静かな気がして、世界には私と晋助しか居ないような錯覚を起こした。本当にこの人は暗い夜がよく似合う人だ

あぁ、私はこの街にきて晋助が居ない毎日を過ごして悲しくて苦しいと何度も想ったけれど、それだけだったわけじゃない。むしろそれ以上に楽しくて嬉しいことは何度もあった。不幸せなんかじゃなかった。きっとこれからもこの街に居ればいつまでだって笑っていられるだろう。でももう決めてしまった。いや、最初から決まっていたこと。差し出されたその手を掴んで声にならない声で目の前の人物の名を呼べば、はっきりと私の名前を呼び返された。それと同時に今日まで私が生きた世界に終わりを告げられた。それでも掴んだ手は驚くほどに暖かくて、聴こえた声は驚くほどに甘いから私は目一杯笑った。晋助も笑ってた。ねえ、これから先の私の世界はみんな貴方にあげる。貴方がまたはじめから創り直してくれればいい。交わした口付けはその最初のひとつ

今日まで見てきた世界はキラキラきらきら目が眩むほどにまばゆい世界。数えきれない色彩で鮮やかに染まる世界。まるでなにも無かったように私を照らす世界。大切だったけど、私には不釣り合いだったの



















綺麗なだけの世界では生きていきたくなかったの



(まっくろく汚れていてもいいよ)(貴方とお揃いなら)

















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