V
□太陽に埋葬
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死ぬのは私が先だとわかってた
気持ちの面で言えば彼を残して先に死ぬのは本当に本気で嫌だったけど、私の実力でこんな世界を生きてる限り早死にするのは目に見えてたからしょうがない。しかし嫌だという気持ちが強かったお加減なのかなんなのか、私は死んだあとでもザンザスの傍に居ることを許された
許されたっていうか、私が勝手に居るだけなんだけど。私は死んで、いわゆる幽霊というやつになってザンザスの傍をうろついてる。でも、ザンザスにも他のメンバーにも見えてはいない。ザンザスならお得意の超直感でなんとなく気付いてくれるかなぁと思ったけどさすがに無理だったらしい。それでも、私が死んだあとのザンザスの様子を知ることが出来るならこんなに嬉しいことはなかったから落ち込みはしなかった
生きてた頃、私が誰よりザンザスに愛されていたって実感を得ていたわけではないし、私にしか見せないザンザスがいたのかと訊かれたら正直よくわからない。ふたりで居てもザンザスはザンザスのままだったから特別な会話をすることも無かった。ただ、ひとつだけ言えるなら、私を殴ることはなかったということくらい
ザンザスが私をどう思っていたのかは死んでもわからない。死んでわかったことなんて、私は死んでもザンザスを愛してるということだけだ。死んでも愛してる。生きてる頃にザンザスに何度か言ったことがあったけど、反応は返ってこなかった。まあ、どんな愛の言葉にも無反応だったのだけど
それでも構わなかった。私はとにかくザンザスに、自分のことをこんなにも愛してる存在が居ることを知ってほしかった。自虐的に、自ら大切なものを壊してしまうのはやめてほしかった。慈しむということから逃げないでほしかった
私が死んでから、ザンザスはよく女を抱くようになったけど、特定の女を決めて抱くことはなかった。いつも違う女を興味無さ気に抱いていた。私が生きてた頃は多分こんなことしてなかったはず。私がしつこく傍に居たせいもあったけど、抱くのは私だけだったと思うしこんなどうでもよさそうな顔で抱かれた記憶も無い。何かを探すように毎晩違う女を抱くザンザスを見ていると、ザンザスに抱かれる女達に嫉妬することなど出来なかった
「何してやがる」
『……お迎え……?』
これもわかってたことだけど、ザンザスも特別長生きは出来ない。当たり前と言えばそうだろう、好戦的で周囲に敵を作りまくってた暴君なんだから。でも少なくともスクアーロよりは長生きすると予想してたけど、そうではなかったらしい
瞳を閉じて横たわるザンザスと私の隣に立って私を睨むザンザス。私に話しかけてきたのは勿論、隣に立ってるザンザスだけどあまりにも恐い顔して訊ねてくるものだから思わず嘘を吐いてしまった。お迎えもなにも、私はずっと傍に居たんですけど。チッ、と舌打ちしたザンザスは視線を私から横たわる自分へと移していた。顔はいっそう恐くなってる。周囲は未だ喧騒のままだ
『…しょうがないよ、あれは誰でも死ぬって』
「……」
『…生きてたかった?』
「くだらねぇ」
『でもつまらないこともなかったでしょ?』
「……」
『ザンザス…?』
「てめぇはなんで先に死んだ」
『え…』
「死んだ後を見てたんじゃねぇのか」
『……』
「俺に嘘が吐けると思ってんのかカス」
情けないことに私は生きてた頃に彼から愛されてた自信があまり無かった
だから、私が死んだその日だけはスクアーロさえも部屋に通さずお酒を一滴も飲まずに、私がいつも座っていたソファをじっと見つめていた彼の姿には泣かされた。もしかしたら私の事ではない全く別の事を考えてたかもしれないけれど、私は私の都合の良いように解釈させてもらった。ザンザスの中に、私は確かに居たんだ
そのとき私は、見えてないのをいいことにザンザスの隣で鼻水をずるずる啜って泣いた。嬉しくはなかった。哀しくてたまらない。置いてきぼりにしてごめんね
『……ごめんね…』
「ドカスが」
『寂しかった?』
「かっ消すぞ」
『会いたかった?』
「死ね」
『死んでも愛してるよ』
「聞き飽きた」
『お互い幽霊になっちゃったわけだけど、これからもまた傍に居てもいい?』
「……」
『もう置いてかないから』
「……」
『だめかなぁ…』
「……てめぇより」
『え?』
「てめぇより俺を愛せる女なんざ居ねぇだろうが」
いつの間に辺りは静かになっていたんだろう。もうザンザスの言葉しか聴こえない。ねえやめてよ、どんな顔してそんなこと言ってるの。まともに顔を見れない
『…嬉しくて死にそう…』
「…そうかよ」
遠くからスクアーロ達のザンザスを呼ぶ声が聞こえる。みんな悲しむだろうな、一人で死なせたことを悔やむだろうなごめんね。だけどザンザスは一人じゃなかったし死んだあとも私がずっと一緒に居るから。それを教えるまでにはまだまだ先の話になるけど、その日が来たら昔みたいに皆で笑おう。だから許してもらえないかな
太陽に埋葬
(此処はとても温かだから)(どうか心配しないで)
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いつかの未来のはなし