・Novel

□光速には追い付けない(火+黒)
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少し先に背の高い赤髪が見えたので小走りで後を追った。

ちょうど並んだところで速度を合わせ、隣あって歩けば、
「…何で隣歩くんだよ。仲良しだと思われんじゃねーか。」
ちらっと僕を横目で見ながら火神君は言った。
「実際仲良しじゃないですか。」
「仲良しじゃねーよ!!」
火神君は怒鳴るように言うと、足を速めた。
それに合わせて僕も足を速めれば更に彼は足を速める。

そんな事をしてれば、最終的に火神君のフルスピードの早歩きに追い付く為に、僕は小走りをする羽目になった。
これほど速ければ競歩の選手になれますよ、火神君。


ふと歩き辛さを感じて下を見れば、靴紐が解けていた。

「火神君」
隣を歩く彼を呼びかけるがその返事はない。

「火神君」
立ち止まって呼ぶが、彼は進み続ける。

「火神君」
次、振り向かなかったら諦めよう。

「かがみ‥」
「んだよ!」
火神君はだいぶ進んだ先で不機嫌そうに振り返った。

「…靴紐、ほどけました。」
そう言うと、だいぶ前に居たのにチッと舌打ちをしつつ僕の所まで戻ってきてくれた。
さっきまで振り切ろうとしてたのに…変な人ですね、君は。


「火神君」
靴紐をワザとゆっくり結びながら、隣に立つ火神君を見上げた。
嗚呼…しゃがんで見ると更にデカいですね。
「あ?」
彼が振り返れば、鋭い瞳と視線がぶつかる。
それがなんだか辛くて目線を逸らしたが、いまだに視線を感じる。

「…置いてかないで下さい。」
やっと出したその声は思いのほか女々しかった。
「置いてかねーよ。」
間髪いれずにくしゃり、と強く頭を撫でられた。



「オラ、結び終わったなら行くぞ!」
火神君は僕の腕を引っ張って、今度はちゃんと僕が小走りにならない速度で歩く。
僕はそれが何だかくすぐったくて隣を歩く彼に気付かれないようにくすりと笑った。




僕等に決別の日なんか、来ない。



ただ置いてかれるだけなんだ。

それがわかってても僕にはどうしようもなくて。
ただ、君の“影”として君の隣を歩いて行く。


いつか、君の背中が完全に光に飲み込まれるその日まで。


影はいつだって光速には追い付けない。


光しかないその世界に僕は行けない。


(だけど、その“いつか”が来るまでは君の隣を歩かせて下さい。)



END.

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