・Novel

□lost sight of you(火黒)
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「…あれ?」
黒子は1人そう呟いた。


今は昼休み。
黒子は火神に用が有り、彼の教室を訪れたのだがその姿はなかった。
火神は大体昼休みは教室にいるので彼の姿が見えないのは珍しいことだった。
(どこか他の場所にいるんですかね?)
黒子はそう思い、教室を後にした。




(おかしいですね…)
屋上、購買、中庭、トイレ、火神が居そうな所は一通り探したし、それからもしかしたら自分とすれ違ったのかもしれないと黒子自信の教室も探し、もう一度火神の教室にも行った。だが火神の姿はどこにもなかった。
影の薄い自分ならともかく、人一倍存在感を放ち長身に赤毛の火神が見つからない訳がないだろうに。

用事自体は取るに足らないことなので別に今火神を探さなくても良かったのだが…
(なんか、落ち着かない。)
自分が誰かを必死になって探すといういつもとは逆の立場だからだろうか。
それとも…



黒子は半ば居ないだろうと思いながら人気のしない体育館の扉を開ければ、やはり人っ子一人居ない。
黒子は溜め息をついた。
(何ムキになってるんでしょう…)
なんとなく虚しくなって黒子が教室に帰ろうとした時だった。 

「おい、何やってんだ?こんなとこで」
扉のほう方から声がし、振り向けばそこには先程まで自分が探していた火神が居た。

「…火神君を探してたんです。どこに居たんですか?」
そう素直に答えれば火神はバツが悪そうな顔で頭を掻いた。
「あー・・悪ぃ。センコーに呼び出されて職員室に居たんだよ。」
成る程。まさか職員室に居るとは思っていなかったので見つからなかったのも無理がない。


ところで、
「どうして火神君は此処へ?」
黒子は見つかったのは良かったが何故火神がここにいるのだろうと不思議に思い訪ねた。
「あぁ、お前が体育館に行くのが見えたから来たんだよ。
それにお前、泣きそうな顔してただろ…」
「…!!」
黒子は火神の言葉で先程までの落ち着かなさの理由がわかった。
嗚呼、そうだ…

「火神君がなかなか見つからないので…不安だったんです。」
半ば独り言のように呟けば、
「ばーか。消えてなくなった訳でもねーし、大袈裟なんだよ。」
とため息混じりに返され、大きくて温かい手で髪をクシャリとかき回されれば、先程まで不安で凍りそうだった胸が溶かされていくようで。


「火神君、君の影ですから。」
黒子が不意に語りだせば、火神は不思議そうに頭を傾げた。
黒子は言葉を続けた。
「影は光がないと存在出来ないんです。だから…何処にも行かないで下さい…。」
黒子にとっては切実な言葉。
だが火神には笑われるかもしれないな。そう思っていれば、不意に自分を包み込む温かい感触。
気づけば黒子は火神に抱きしめられていたのだ。
「俺は何処も行ねぇよ。だからそんな泣きそうな顔するな…!」
そう言うと火神は黒子を抱きしめる腕に力を込めた。

火神のにおいが、服越しに伝わる体温が、彼がここにいることを黒子に伝えてくれる。
「火神君、もう不安にさせないで下さい…」
そう言って黒子も火神の背中に腕を回す。
「…今日はやけに素直じゃねーか。」
普段見せない黒子の甘える態度に火神がニヤニヤしているのが悔しい。
「今日は特別です。
大体探すのは火神君の役目でしょう?僕と違って君は無駄に存在感があるんですから二度と僕に探させるようなことはしないで下さい。」
と、照れ隠しに少し理不尽で可愛げの無いことを言ってみるのだがハイハイと流されてしまうのが悔しい。


(なんか僕だけ深刻に考えているようでくやしいです。)
でもそれ以上に彼が傍にいることが嬉しくて。

もう先程の不安などどこかに吹き飛んでしまっていた。








―嗚呼、この人には敵わない!−













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