・Novel

□カラカラ(火黒)
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僕は3日前から風邪で学校を休んでいた。
熱は大分下がり、学校には行こうと思えば行けるのだが母親に大事をとって休まされた。

(暇です…。)
ベッドの上で小説を読みふけるのも悪くないけど、いい加減バスケがしたい。そんな事を考えていたら携帯がけたたましく鳴った。液晶を見れば《火神君》と映し出されていて、慌てて通話ボタンを押した。
「はい、もしもし…」
『よぉ、少しはマシになったのかよ』
久々の火神君の声に少しドキドキした。
火神君はお見舞いに来てくれると言ったのだが風邪をうつしたくなくて断固として止めさせた。
「はい、明日には学校に行けそうです。まだ部活は出れませんが…」
『そっか…たく、とっとと治せよ。お前がいねぇと学校も部活もなんかつまんねーからよ』
そう言ってくれる火神君が酷く愛おしく感じてふいに泣きそうになった。僕でも病気の時は心細くなるんだな…っとどこか他人事のように考えた。

暫く会話をし、名残惜しいが電話を切った。
僕は喉の渇きを感じ、母親が枕元に置いておいてくれたスポーツドリンクを口にした。
風邪を引いてからと言うもの異常に喉が渇く。最初は熱のせいだと思っていたけど、もう熱は下がってる筈なのに寧ろ喉の渇きは酷くなった気がする。
でも、
(絶対明日は学校に行きます。)
僕は自分自身にそう言い聞かせて眠った。
 
 
 
朝起きてみれば熱は全くなくなり、体は大分楽になっていた。
母親から学校に行くお許しが出たのでテキパキと学校に行く支度をした。
喉の渇きはまだ酷かったけど気にしないことにした。


支度を一通り終え、「行ってきます」と言って玄関を開いた。
玄関を開いたとき目に入ったのは見覚えのある赤い髪に長身の…
「火神君!?」
「よぉ、久しぶりだな。」
当たり前のように挨拶をされた。
「お久しぶりです。どうして此処に?」
「電話で学校来るって言ってたから迎えに来てやったんだよ」
そう言って大きな手で僕の髪をくしゃくゃにかき混ぜた。嗚呼、さっきとかしたばっかなのに…。だけど嫌じゃないので文句は言わず火神君にされるがままになる。

「ほら、行くぞ」
くしゃくゃになった髪を治し終わった頃、火神君はそう言って手を差し出た。
僕が手をキュッと握れば強く握り返してくれた。


朝の街は何人かすれ違う人がいたが、火神君は気にせずに僕の手を握ったままだったので僕も気にしないことにした。


人通りが全くない道にさしかかった時、何か思い出したように火神君は僕を振り返った。
「どうしたんですか?」と言おうとしたが、それは言えなかった。
目の前には焦点が合わない程の火神君のどアップと唇に感じる柔らかい感触。
キス、されてる。とようやく僕の頭が理解した時には火神君の唇はちゅっと軽いリップ音をたてて離れていった。

「火神君、急に、何するんですか」
顔が熱い。多分赤くなっているんだろう。
「うるせー。お前が3日も休んでるのが悪ぃんだよ。」
そんな理不尽な事を言って強引に僕の手を引き歩く火神君の横顔はほんのり赤くて。

僕は恥ずかしさと愛しさと、それからたくさん飲み物を飲んでもカラカラだった僕の体が潤っていくのを感じた。
喉の渇きはもう感じなかった。


ーああ、僕は君に渇いてたんですね!ー









ー君が居ないと僕はカラカラ、枯れてしまうのです。ー


 

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