□膓
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テストで部活も休止期間。
辺りは静かな放課後の教室で、私は頭を抱えていた。正面の机で頭を傾げる男子生徒のせいだ。

「この遺書で書かれている私、もしくは語り手は誰なの?」
「あー…?私ってんだから女だろ。んーお嬢さんって奴じゃね?」
「…………」


長曾我部元親は頭が悪い。
酷い言いようだが許して欲しいわ。一学期はぎりぎり本当お情けで赤点を免れさせてあげたのだから。


「光秀の一人称は?」
「……私、だな」
「私は男性も使うわ。さぁもう一度考えて」
「………」


時間外の補習も大サービスだ。実はなんとなくほって置くには可哀相な子だからと言うのもあるのだけど。



一通り(授業でやった全て)を教え、それなりに長曾我部は納得したようで俺100点取るからと調子に乗ってはしゃいでる。冷たいようだけど、まぁ、うん。無理ね。


「お前は確か毛利君と仲良しよね」
「幼なじみなだけだ」
「ならあの子に勉強教えてもらいなさいな。学年上位でしょうに」
「あの男が俺に勉強教えてくれるかっての。もし承諾しても見返りが恐ろしく金額的に高かったりするから嫌だ」
「まぁ、仲良しね」
「何処が!?」


幼なじみと聞いて思い浮かべたのは優しい笑顔を浮かべたいつかの人。あの頃は本当に王子様みたいだった。

そういえばさっきの一人称の事もあんな感じで教えてくれたのは彼だったなぁ、と遠い目。
放課後の図書室。茜色の鮮明な思い出。
あれが今は保健室の死神と呼ばれてるなんて信じ難いが本当なのだ。


「まぁ経験上近所の幼なじみとは一生付き合う場合が多いから」

本当に、と溜息吐いた。
長曾我部は首を傾げている。


「あら?知らないんだっけ」
「何が?」
「私と光秀、親戚兼幼なじみよ」


一つ年上だけどと言えば長曾我部は目を見開いて、ああ成る程なぁ…となんだか深々と納得したような表情になった。

「経験上なぁ」
「経験上よ。あれとは学校も高校まで一緒だったし仕事場も同じ。しかも上総之助様には…言い方があれだけど物凄い懐いて今も家に居座ってるのよ」
「多大な迷惑かけすぎだろそりゃ。もう腐れ縁どころじゃねーな」
「腐れ過ぎて白骨化よ」

昔から一緒にいた。
テスト勉強はいつも図書室で二人きり。静かなその状況に凄く心が落ち着かなかったこともあった。確かに彼は私の、


「…無駄話している場合じゃなかったわね。さぁ、この作品の作者名を書いてみて」

「どんと来いや!!」

余計な事を思い出してしまったと、忘れる為にも首を振るい相関図の書かれたプリントの空いてる場所に名前を書かす。
サラサラと自信満々に書いた長曾我部。


夏目瀬石


「…惜しい」
「あァ!?何処がちげーんだよ」
「良く見なさい」


屁理屈理屈も無いのだ。
気付いた時にはもう心の奥底に居座っていたこの感情は。




初恋を思い出す







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