□廻秋
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ちゃりん
ピッ
ガコン

自動販売機で、あたたか〜いコーヒーを買う。

「あっちっ」

取り出したときには温度差のせいか持てないくらい熱く感じたが、慣れればちょうどいいカイロ代わりだ。


さっびぃなぁと着ているカーデガンの裾を出来るだけ引っ張る。
少し伸びてしまうけれどまあいいや。とにかく寒い。
冷たい風がぴゅうぴゅう吹く中で、ひんやりとしたアイスクリームトリプルを嬉しそうに食すかすがを見る。

やけに小難しい名前を三つ店員に頼んだ時には流石に呆れた。でも可愛い可愛い恋人が悲しがることは言わない。
どうしても食べたくなったんだ、と言い張る彼女は、そろそろ赤や黄色に染まるであろう桜の木の下のベンチで俺様が寒さで凍えて、缶コーヒーで暖を取っているなんて気がつかない。
つーかなんで外で食ってんだっけなぁー。ああ、フードコートが満席で座れなくて、仕方が無いからとかすがに連れられ近所の公園に来たんだ。

つーかかすがこそ寒くないのかと問いかけたくなる。
流石に上にはいつもの秋ごろから見られるピンクのカーデガンを身に付けているが、下はこれでもかと短いスカート。太ももとハイソックスの絶対領域(少し古いか?)がいい具合に見れるのだ。
そりゃ拝みたくもなりますが、時と場合によります。
全く、近頃の女子高生ってすげぇなぁと関心してみる。

じっと見つめていると、かすがは首を傾げてアイスをこちらに向けてきた。

「お前も食うか?」
「遠慮しとくよ」
「お前が嫌いなバニラは無いぞ」
「いや、違う。寒いんだって」
「遠慮するな」

ぐいぐいと頑なに食わせようとしてくるかすがに、俺は気がついた。

「ははぁーん?もしやかすがちゃん寒くなってきた?」
「ち、ちがう!」
「ほらぁー食い意地張ってトリプルなんか頼むのが悪いんだよ」
「だ、だって食べたかったんだ!」

実は暑いんじゃないかというくらい顔を真っ赤にして、叫んだかすがの可愛さに何かが弾けた。
でも寒いというのは本当らしく、気のせいかカタカタと震えている。

「馬鹿じゃん」
「うるさーい!」

それでも何とか食べてしまおうと必死に口を付けるが冷たさが頭に響いたようで、悶えている。

「仕方が無いなぁ…。俺にも少し頂戴」
「ん」

傾げられた三段の雪達磨。
一番上は彼女が一番好きというレモン風味のバニラ系のアイスであった。

「ちょ、バニラ」
「これはうまいだろ?」
「もー!俺、駄目だって知ってるでしょ」
「知っているけど、ね。美味しいから食べてみな」

挑発するような言葉にムッとして、悪巧みを思いついた。

「じゃあ頂きます」
「たんと食え…んっ!?」

俺の唇はアイスを通り過ぎて、かすがの凍えた唇へ。

頑なに閉じるから舌で抉じ開けて中に進入
舌が火傷するのではないかと思った。
冷たい咥内。抵抗してくる舌を絡めとると例のアイスの味だろう、レモン味がほんのりした。


かすがが抵抗して暴れたもんだからべちゃりといやな音がした。
それも気にせず押さえ込んで、咥内を字のとおり貪った。

秋風が気にならなくなった。
体温が、いやな方向に上昇している。



しばらくして離れると顔を真っ赤にして口をパクパク動かすかすがはとりあえず腕を振り上げてきた。
へろへろだったので簡単に避けれて、そのまま手を掴み握る。冷えている。

「口ん中までひゃっこかったじゃん」
「ば、ばばばばかか貴様っ…アイス、落ちたし」
「また今度買ってやんよ。今度は炬燵の中で食べましょうぜ」

ニカっと笑えばかすがは一瞬はたじろいだが、諦めたように手を握り返してきた。

「わがまま言ってすまなかった・・・」
「はいはい」

ニッコリと笑って、もう一度手を握り返す。
そのままかすがを引っ張り出すように立ち上がる。
戸惑ったかすがはきょとんとして首を傾げる。

「つめた〜いの季節はもうおしまい」
「ちょ、」
「あたたか〜いに愛しさを感じる季節を堪能しようぜ」

春よりも夏よりもすこし寒い秋が、寒すぎる冬より好きだった。
なんだか短い特別な季節がして、食べ物も美味しいし、堪能したくなる。

砂まみれでぐしゃぐしゃのアイスをもう一度、視界に入れて。


ニヤリ、笑う。




「じゃ、とりあえず手始めに俺ん家でお互い冷えた身体を暖めましょうか」
「じ、冗談!!」






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