戦
□「こ」と「ば」
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いつかは私より
ちょっと大きくて
ちょっと切り傷付いてて
ちょっと冷たかった
この腕
でも今は私より
大きくて
傷だらけで
冷たい
この腕
「ちょっと」がなくなるだけでこうも違うのか
言葉とは不正確なのかもしれない。
かすが
何度も何度も私の名を呼ぶ。
でもいつしかそれは私にとって、ただの「か」「す」「が」という音になって無機質な物と化する。
(そもそも「かすが」なんてあったかな)
かすが、かすが?
なにそれ
わからない
かすが、かすが!
ああ、私の名前だったな
そんな風に私が言葉の正確性に疑問を抱いているなんて、目の前で泣きそうな顔して私を抱いている男は想像しないだろう。
好きだよと男は耳元で嘆くけど、それもまた無機質に私の耳を通り過ぎた。
(ごめんいまのわたしはことばがよくわからない)
感覚だけが私を支配し、痛みと熱とけだるさだけが残った。
「かすがっ…!」
「か」と「す」と「が」
「ちょっと」うれしいのは何故?