□夢の日々
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『かすが』

呼べばなに?と彼女は優しく笑って振り返る
俺は少し考えたが、なんでもないというと、かすがはまた笑って前を向いて歩き出す

夕焼け空は綺麗で、彼女も綺麗で、世界も綺麗だった


「…佐助?」

心配そうな声が俺を呼んでくれて目を覚ました

「うなされていたぞ。悪夢でも見たか?」

びっくりして飛び起きる

「だ、旦那ぁ?なんでここに…」

「お前を起こしにきた」

朝の鍛練を終えた後らしい。もういつもの赤い鎧を着ている

ちょっと落ち着いたら布団も寝巻も汗で湿っていることに気が付いた

それと同時に頬に汗が伝った感じがした


「…夢を見ていました」

「佐助…泣いているのか?」

「え?」

気が付くと汗だと思ってたそれは目からポロポロこぼれてて
旦那が拭ってくれたけど、止まらない

「旦那。あのね。あの頃は本当に楽しかった」

世界は狭くて、側には必ずかすががいて。俺も子供だったんだ

「でも、もう駄目なんだ」

「なにが駄目なのだ」

「もう、思い出でしかない」

世界を知って、本当に手の届かない場所にかすがはいって。俺はもう大人なんだ

「記憶でしかない」

「戻りたいか?幼き頃に」
「…違うよ。今だって楽しいんだ。旦那や大将と一緒にいること」

涙はとめどなく溢れてくる

旦那は困り果てて

「だ、大の男がめそめそ泣くな!」

そう言って俺の頭を撫でた

「仕方がないじゃんかよー…」

旦那。あの思い出が、あんたらを守る俺の一番の枷だから


だから、こんなに悲しいんだ


なのに涙が止まらないほどに、それが愛おしいんだ。



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