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□星の下で
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黒い暗い空に、はぁと溜息を吐いてみた。
恐ろしいくらい澄んだ空で、私はあの時見た、淀んだ沼の色みたいな空を思い出していた。
吐き気がするほど濁った空。
ああ、でも。彼女は幼い頃その空ばかりみていたのだから、たまに恋しくなったりするのだろうか。
そう聞くと彼女は苦笑いして、「少しね」なんてらしくもない返事をした。
三人でここに来たのはもしかしたら初めてかもしれない。毎年彼らの誕生日になると残された皆で訪れたりもしたが。
戦ぐ風にまん丸の月。照らされ逆光に写る罪の跡。舞う白い花びら。粒々が燦々と瞬く。
美しいですわね。
彼女はそう言って、月を見ていた。
そうね。
目を瞑って、彼女はそう言った。
私は二人の様子を後ろから見て何も言わずにトクナガを胸に抱いた。
嗚呼、泣いているんだ。
なんて思った。
声も涙も出さずに、心の奥底で「愛しているわ」と何万回と呟きながら。
彼女達は大切な人を失った。
私も、彼も、大事な人を守れなかった。あの人も、きっと、亡くしてしまっていた。
いつだって孤独な私たち。
共に居るのに、別の人しか見えていない。
ああ、だからあの頃陛下になんで一緒に旅しているんだなんて、言われたのかも。
でも今は。同じ人を待っている。
同じ事を願っている。
愛しい、と思う。
この感情はそれ以外の言葉では表せない。
草木や花の擦れざわめく音と水の音しかこの空間には聞こえなかった。
寂しくなった。身を裂くほどの猛烈な寂しさ。
泣こうか。泣こうかな。
でも涙なんて出ないから、鳴いてみようか。
「早く帰ってきてよー!!馬鹿ー!!」
「「!?」」
静まり返った渓谷に声は驚くほど響いた。静かに蠢いていた生き物達が飛び上がってしまったが、後悔はない。
彼女たちが驚いて振り向いた。見開いた顔はなかなかの見物。
「あーすっきりした!ね?これくらい言わないとあいつ帰ってこないって」
ぎゅうぎゅうとトクナガを抱きしめながら彼女達に笑いかけた。
暫く顔を見合わせて、突然噴出した。
そうね、そうよねとけらけら笑いながら、今度は三人で、月と星に向かって笑った。
一等星が、きらきら輝く。
そこじゃないよね。憧れの、貴方は雲の上。
愛するばかりじゃ怖くて、愛されたいよなんて叫ぶけれど、きっと愛されるばかりじゃ恐ろしい。愛し合いたい。
貴方が教えてくれた全てに、私の全てを、賭けて生きたい。
終
時間枠が何処何時なのかは、深く、考えないで下さいお願いします…。
個人名を書かずに書こうとがんばったのですが、なかなか上手くいかずまとまらない文章に。
イメージはYUKIさんの「鳴いてる怪獣」。なんか色々まんまです。