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□ぬいぬい
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「あらジェイド。ポケットのところ、ほつれていてよ」


指摘されるまで気が付かなかった。ああ確かに、軍服のポケットの糸がほつれている。
ポケットに手を入れる癖がある為かよくなってしまうのだ。その都度自分で繕うのだが、リフィルは何故か目をキラキラさせて私が縫ってさしあげますと言い出した。

「遠慮します」
「私裁縫は出来るのよ」
「冗談はさておき。ラルヴァの世界普及率についてですが」
「それは先日聞きました。ほら、貸して!出来る筈よ!」
「筈と言った時点で信用性にかけるのですが」
「あら?"筈"の言語用法は、当然そうなるべき道理、若しくは確信を持って成功できる事柄よ」
「成功の予定を示す場合もありますが」
「私は前者の意味で用いたの」
「いやいやー。家事スキル−5以下の貴女には無理でしょう」
「待ってなさい。ナナリーから裁縫道具借りてくるから」


それから暫くして、渋るナナリーを言い負かして借りてきたという裁縫道具を広げ、拒む私から無理矢理軍服を剥がした。


「本当に出来るのですか」
「任せなさい。ジーニアスよく転ぶからズボン破いちゃうの。それを私がいつも直していたのよ」
「………」

軍服を膝に抱え、似たような青の糸を手先良く小さな針の穴に通し、得意げに言った。
彼のズボンは膝丈より上だが。と、突っ込もうと思ったが後が五月蝿そうだったので黙っている事にする。

端のとこをちょろっと縫うだけだから任せても、大丈夫だろう。何かあったら止めればいいし。


しかしやはり彼女は彼女だった。


「縫い終えたわ」
「随分時間がかかりましたね」


時間がどれほど経ったかはもう確認する気力もない。
ところどころ危なっかしく指に針を刺そうとしたり突拍子も無いところを縫い合わせようとしたり。
しかし本人は関心の出来らしく、早く着てみてと急かすばかり。
受け取ろうと軍服を手に取る。


ツン

「やっ!?」
「おや」


軍服を引っ張ったと同時に彼女のローブの裾が伴に連れられた。
青の糸が間に縫われている。

「一緒に縫いましたね」
「た、たまには失敗もつき物です」

焦ったリフィルが糸切りバサミを取り出し、縫い糸を切ろうとするのを制す。

「な、なに?」

若干体制がキツイものがあるが、なんとかして軍服に袖を通す。


「ちょ、やめなさい!」
「はーい。リフィル先生の大いなる失敗ですよー」
「ちょ、ジェイド!!」

べろんと捲くりあがったローブが恥ずかしいようで、焦る様に糸を切っていく。手元が狂い軍服とローブごと切りそうになったりと、危なっかしいが面白い。

「本当、ふざけるのもいい加減にっ…あ、らっあ!?」
「おっと」

リフィルの足が縺れ、私の体ごと床に倒れた。
手早く体勢を整えたお陰で何とか正面衝突は免れたのだが、傍から見れば私がリフィルを押し倒しているような体勢になっている。

いち早くそれに気が付いたリフィルの顔が赤く染まることを確認すると、にっこりと笑んで、顔を近づけてみる。

ぶつかり合った青い瞳と赤い瞳。


しかしそれはほんの一瞬で、じとりと目を伏せたリフィルの氷のような視線が突き刺さる。


「どーきーなーさーい」
「しかし縫い合わせた部分どうにかしないとー」
「くうっ…!私の位置からじゃ、出来ないから貴方やって頂戴!!」
「私は別にこのままでも」
「早く!」

ハサミを突きつけられ、危ない危ないと体勢を整えつつ、それを受け取り腕を伸ばす。
結構きつく縫ったようで、隙間に糸の間にハサミの刃が入らず、こちらも悪戦苦闘。



「……」
「……」
「ずっとこのままでいましょうか」
「誰か!!」




結局パニールに丁寧に切ってもらった。





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