O

□バース
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ずいと差し出された丁寧に赤いリボンで包装された白い箱。
戸惑い、首をかしげるジェイドにリフィルはニコリと

「お誕生日、おめでとう」

綺麗に笑って言った。


「……」

しばし沈黙。二人して同じ表情のまま固まっている。
しかもその表情は普段の二人の立場が入れ替わったように、リフィルは笑い、ジェイドは怪訝そうにその笑顔を見ている。


「えぇと…」

先に動き出したのはジェイドのほうで、立掛けの時計を一目し、胸ポケットから手帳を取り出して、ぱらぱらと捲る。行き着いたページを指でなぞり、今日を指差して気がつく。


「ああ、もうそんな日でしたか」

「…また忘れていたのね」

はぁとため息ひとつ。毎年毎年こうもサプライズをしてやっているというのに、彼は根本的に別の意味で今日を驚く。もしかしたらそれも演技なのではとも思うのだが、手帳と記憶を照らし合わせる姿にどうも疑うことが出来ないでいた。

とりあえず受け取ってと白い箱をジェイドに突きつける。


「ありがとうございます」

「いえ。開けて見て?」


赤いリボンをしゅるしゅると解いて、白い箱を開けると同じように白い丸いバースディケーキがちょこんとあった。果物と蝋燭と、板チョコにホワイトチョコペンで書かれた「ハッピーバースディ」の文字。

「こんな祝ってもらうような年じゃないのですが」

「年に一度のイベントよ。大事にしなくちゃ。ほら、蝋燭つけましょう」


どこからかマッチを取り出して火を灯す。
バランスよくの為か年の数関係なく並べられた3本の蝋燭。

「せっかくなら年齢どおりの数がよかったかしら」

「そんなことしたなら大惨事ですよ」


小さく笑いながら蝋燭に火を灯す。
リフィルは明かりを消すため席を離れた。ジェイドは流されつつある今の状況をただなんとなく揺れる炎を見ながら考えた。

ぱちりと消された照明。炎の暖かな橙色が部屋を二人を薄く照らす。
嗚呼、この胸のざわめきの正体は、思い出と重なるからなのだろうか。

少年だったあの頃、遅くまでの残っていた自分と先生と二人きりの誕生日。本と書類に囲まれた小さな部屋で、小さなケーキに二人分のコーヒーの湯気。先生が動く音と自分の音のみが耳を掠る。薄く明るい蝋燭の明かりに、歌は遠慮した先生の「さぁ、吹き消して」の合図とともに唯一の明かりを吹いて消した。ふと暗くなる世界。騒ぐ自分の音。着いた明かりに落胆と安堵が押し寄せて、引いた。何度も御代わりをしたコーヒーで洗い流したはずの甘い砂糖の味が舌に残って消えやしない。


「さて。じゃあお誕生日の歌でも歌いましょうか?」

銀色が染まる。

「いえ、それは流石に恥ずかしいでしょう」

「貴方が」

「貴女が」

「…そうね。じゃあ蝋燭消して食べましょ」


なんとまぁ淡々とこなす事でしょう。
リフィルはまたいつもの薄く笑んだ表情に戻ったジェイドを見てほんの少し寂しくなった。相変わらず何を考えているか置く深くまで知りえないが、それでも共にした時間が彼の中の隙間をちょこっとだけ覗けるだけの思考と洞察力を彼女に与えた。
橙に反射した眼鏡のレンズの奥の赤い瞳は、また別のものを見ているのだ。それでも構わない。そう思えた。
ただ、今日を貴方にとって無意味な日にしないで欲しい。それだけは解ってお願い。

蝋を垂らさないように慎重に、ケーキをジェイドの方に押して早く火を消せと催促してみた。


ふぅ


一息で消えた炎。辺りは暗くなって、チカチカと明かりの残像で目がくらむ。

ぱちりと着いた照明に、明るくなった部屋を眺め、ジェイドは思い描いてしまった風景と今の状況がやはり異なるものだと思い知った。


「(それでいい、ジェイド・カーティス。あれはもう思い出ですらないのだから)」


若干おかしなものも置いてあるが今は整えられた広い机。聞いたことのある名称のワインと磨かれたグラスが二つ。ケーキはよく見たら手作りのようで、若干クリームがはみ出していたり形が悪かったりしていた。

それに、

「待ってね。今切り分けるから」

いそいそとケーキを切り始めたリフィルを瞳に映してふっと笑う。

「リフィル」

「はい」

「今度、貴女の誕生日聞かせてください」

「え?」

「今度は私が貴女に感謝を伝えねばなりません」

「もう。お礼なんていいのに」


はい、と切り分けられたケーキとフォーク。
そして注がれたワインとリフィルを並べて視界に入れた。
大人二人のバースディパーティにしてはシュールであまり色気のない。
だがこれで十分だった。

リフィルはとにかく生まれてきてくれてありがとうを教えたいし、ジェイドは彼女のその思いに本人すら気づかないまま救われている。



「お誕生日、おめでとう」

「ありがとう、ございます」










ところで

「ケーキ。見てわかるとおり私が作ったのよ」
「ええ。わかりましたよ」
「その、焦げたりとかしたけれど何度もチャレンジした後にうまく出来たから」
「はいはい。あまり期待はしませんがね」
「…ジェイド」
「はい」
「辛いケーキって画期的だと思わない?」
「……」

最初の不安げな様子はどこへやら。
リフィルのにっこりとした笑顔に、ジェイドはフォークを持った自分の手と、皿のケーキをしばらく眺めた。





2011年11月22日!え、ぎりぎり?知っています。

今回はいろいろ考えたのですが、二人きりのオーソドックスな誕生日ぱーちぃちっくにしますた。恋人同士でないのですが、こうやって二人で祝うことに何の違和感もない婚姻届だしていない同棲カップルみたいなイメージで。

ケーキはきっと辛くないです。ちょっとしたいたずら。で、決死の思いで口にしたものの普通に甘くて何故か落胆します。それがリフィル先生の料理マジック(笑)

今回は会話に間があることを解ってもらいたくて、最後の会話以外一行あけてみたのですがどうでしょうか?読みにくいかなぁ…。
登場人物目線の小説の方が書きやすいなあと実感しました。
あと久々にジェイドがリフィルにネビリム先生を重ねている描写書いたな(最近忘れている)。

ジェイド、ジェイド、お誕生おめでとう

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