□ふりだしの歌
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前田慶次という男は自由という

何をするにも自分自身で決めて走って楽しい事にすぐに首を突っ込む

良く言えば意志が強い

悪く言えば自分勝手






夜遅くの駅のホーム
終列車を待つ私と慶次

「本当に行くのか?」
「何回目?それ聞くの」
「五回…くらい?」
「多分それより多いよ。きっと」

慶次はいつものように笑う
今はただ悲しくなるだけ

「どこに行くんだ?」
「うーん。とりあえずどこか遠いところ」
「何をしに」
「自分探しの一人旅。浪漫だろ?」
「阿呆」
「なんてね」

まだまだ春は遠くて気温は低い
ましては夜中だ
巻いてきたマフラーに顔を埋め、もう一度慶次を見た

線路の先を見ているようでもっと、先の遠くを見ているみたいだった

もう未練はない、というような


「豊臣や竹中と仲直りしたのか?」

すると少し驚いて、アハハと大きく笑って

「まさか!」
「でもお前は旅立つんだろ?もう会えないかも…」
「ハイハイ止め止め。せっかくの気分が台なしになる」

人差し指を口に当てて言った

「忘れるつもりなのか?」

聞いたらちょっと考えて今度はちょっと悲しそうに笑った

「忘れないさ。あいつらも。ただ、いつまでも引きずっている自分が嫌になっちゃってさ」

「ねね…さん?」

恐る恐る彼が愛した女性の名を言ってみる

失ってしまった大切な人

「…また、ふりだしに戻るんだ。」
「何故?」

するとニヤリと笑って

「俺は俺が嫌いだ。そんな嫌いな奴が女の子に好きになってもらえるわけないだろ?」


まあ、愛とか恋とかを重んじる彼らしい

その人の名を言ったせいで傷付けたかもと不安になったが平気みたいだった

「それが旅の理由か?」

笑いを含めていうと、慶次はニコニコ笑った

「昨日のお別れ会楽しかったよ」
「真田は泣いてたな」

伊達の家でお別れ会と題して鍋パーティーをした真田は号泣しながら慶次を見送った

「俺の事忘れないでね?」
「忘れるわけないだろう」
「アハハ、ありがとう」
「だから早く自分を好きになって帰ってこい。…私は今のお前の事、好きだからな」
「駄目だよ、かすがちゃん。佐助がいるだろう?」
「違う!」
「またまたぁ〜」


線路の先から終列車が来た


「じゃあ、またね」
「ああ、またな」

慶次は荷物を担いで列車に乗る


「あ」

ふと、思い出したように声をあげる

「そういえばさ!まつ姉ちゃんや利に旅に出ること言ってないんだわ!よろしく頼むよ!」

最後の最後で巨大な爆弾を残していった


「阿呆!何をどうすればいいんだ!」
「よろしく〜」

そういうと慶次は列車の中に消えた


最後まで自分勝手な奴だ!





前田慶次という男は自由という


しかし本当にそうなのか

過去に縛られ続け、苦しくて苦しくて堪らなくなって

またふりだしに戻るため旅に出た


「本当、自分勝手な奴だな」


その苦しみくらい、私が受け止めてやったのに
私だけじゃない、あいつには前田利家やまつさんだっているのに



とりあえず、まつさん達にどう説明しようかと悩みつつ私は列車を見送った




イメージソング「ふりだしの歌」セカイイチ

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