贈り物
□北風ぴゅう
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「蘭丸ぅぅぅぅ」
畳広がる和風織田家の居間。オラは折角遊びに来たのに、蘭丸はテレビに釘付けで暇。
かちゃかちゃとコントロールを弄る音。蘭丸はゲームをしているのだ。オラをほっぽって。
「暇ぁぁ」
「うるさいな…。あ、死んじゃう!邪魔するなよ!」
ぴこんぴこんと危機感を醸し出す音。ライフゲージが赤くなった蘭丸操る主人公は、ばっさばっさと奇妙な形をしたモンスターをぶった切っていく。
前にゲームはやらせてもらった事があるが、オラには向かねぇ。操作が難しくて出来なかった。そもそも機械が苦手なんだオラは。此間政宗のパソコン弄ってたら壊したし。
ピンチの音が止んだ。いつの間にかライフゲージはオレンジ色になっている。相変わらず、バサバサと敵を「やっつける」
「あー…」
「あんだよ」
モンスター達は、悲鳴を上げて透けて消えていく。生き物なのに、血も亡骸も残らない。
「なぁ。もしこんな風に戦う事になったら蘭丸は戦うか?」
「ああ?なにそれ」
「じゃあ例えば、ゲームの世界に入ったら、とか?」
ぷつっとゲームの中のBGMが止まった。スタートボタンだったかそんなのを押して、メニュー画面になった。主人公の難しい名前とHPとかTPとかがグラフになって表してある。
「どうしたんだよ?」
「んー?なんとなく」
「ゲームの世界かぁ楽しそうだよな」
「そうかぁ?」
「ロマンがねぇなあ。カッコいいじゃん」
「ぶー」
蘭丸はキラキラ目を輝かせている。ちょっと悲しくなった。
「おらは、嫌だなぁ。この主人公みたいに、蘭丸が戦うのは」
「……」
きゅっと繋ぎとめるかのように洋服の裾を握っていた。
蘭丸は、ふぅと深いため息をついて、優しく喋った。
「大丈夫だよ。世の中は、平和だよ」
「…だよなぁ」
どっと脱力感。へなへなと苦笑いする。
「蘭丸は、大丈夫だよ」
「うん」
嘘はついていない。彼は嘘をついていない。
(もう、戻らないで)
なんだか知らないけれど、心の奥底に残る悲しみが解消された気がした。
「よし!外行くべ!!」
「はぁ?」
ぶつりとゲーム機から伸びているコードを引っ張る。途端、蘭丸の悲鳴が響いた。
「ああああああ!!なにすんだお前!」
「へへん。オラを放っておいた罰だべよー」
べーっと舌を出し、一目散に玄関へ逃げる。待てと蘭丸の声と足音が近づいてきて嬉しくなった。
「お邪魔しましたー」
「こら!待ていつき!!」
速攻靴を履き、玄関を出る。家の奥のほうからまつ姉ちゃんと織田のねぇちゃんの「はぁーい」と言う声が聞こえた。
外へ飛び出すとキラキラと太陽は輝いていた。北風が寒い。でも、暖かい。
「どこへ行くんだよ!」
追いついてきた蘭丸が、息を切らしていた。寒いから外でねぇツケだ。
「そうだなぁ。公園に行こう!」
「えぇー」
嫌そうな顔をする蘭丸は、ふと空を見ると「あ」と声を出した。
竹千代が忠勝に乗っている。
あの方向は
「公園だ!竹千代きっと公園に行くんだ!」
「よし!行くぞ!今日こそ忠勝に乗らせてもらうんだ!」
「うん!…えへへ」
手を繋いで走り出す。やっぱりオラはこっちがいいな。
( 平和な 世界を 走る )
「…さっきの話だけど」
「あ?ゲームん中に入る話?どうでもいいべ」
「ま、まぁ聞けよ。あのな、さっきやっていたRPGな、勇者が姫を救うために戦うゲームなんだ」
「ベタだな」
「もし、蘭丸がその勇者になったなら、お姫様は、お、お前だからな!」
「…あぁ?」
「蘭丸絶対助け出すからなぁ!!」
「…あ、ああ。って、え、えええぇ!?」
終