飛蔵飛&蔵幽小説

□告白
1ページ/1ページ

「一度くらい、貴方の言葉で聞かせて下さい」

 立ち上がりかけた飛影の腕を掴んで、蔵馬は真っ直ぐ真紅の瞳を覗き込んだ。

 蔵馬の部屋のベッドの上。
 乱れたシーツ。

 幾度も身体では想いを伝え合っているというのに、飛影はその感情を決して認めようとはしない。
 こぼれる睦言も、いつも聞き流されてしまう。

 ヒトの身体だから、ヒトの心を持ったから、言葉にされなければ確信ができないのだろうか。

 いや、ただ言わせてみたいだけなのだ。
 彼がその言葉を発するところが、どうしても想像できないから。

 案の定、飛影はフンと鼻を鳴らして一蹴した。

「くだらん」

「……わかりました。それが答えなんですね」

 ため息をついて、蔵馬は目を伏せた。

「行って下さい。もう何も、貴方には求めませんから」

 かすかな失望が胸の内に広がる。
 妖狐に戻れば、こんな感情も消えてしまうだろう。
 きっと飛影の望むように、飛影を求められるはず。

 消えてしまえばいい、ヒトの身の己れなど。

 ――――と、その時。
 やわらかいモノが唇に触れた。

 口づけられている?

 それは本当に一瞬で、目を開けた時にはすでに飛影は離れていた。
 彼にしてはめずらしい、触れるだけのキス。

 すぐに背を向けようとしたらしいが、偶然見えてしまった。

 耳まで赤くなった飛影の横顔。

「嫌いなヤツにこんなことができると思うか?」

 望んだ言葉ではなかったけれど、飛影にしてはこれが精一杯というところだろう。

 想われてはいるのだ、ちゃんと。
 言葉にはされないだけで。

「まだ夜明けには早いですよ」

「ああ」

 夜など、明けなければいいと思うのだ。
 こんなふうに、心が通った夜はなおさら。



 夜明け間近の月が眩しかった。



END


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ