飛蔵飛&蔵幽小説

□理髪
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 さっさと消してしまいたかった。

 伸びた髪。
 顔や身体に浮き出た妙な紋様。
 耳にこびりついて離れないヤツの声。

 俺は浦飯幽助だ。
 人間だろうが、妖怪だろうが、魔族だろうが関係ねえ!

 背中に髪があたるのが鬱陶しい。
 またヤツに身体を乗っ取られやしねえかと、気がついたら気配を探っている。
 これは精紳衛生上、よろしくない。

 よく蔵馬はあの長さでまともに生活していられるものだ。

 その時、いいことを思いついた。





「蔵馬、髪切ってくれよ」

 いきなり押しかけた幽助に驚きはしたものの、蔵馬はあっさりと承諾してくれた。
 準備をしますから少し待っていて下さいとリビングの床にビニールを敷いてから椅子に幽助を座らせる。

 母親は出かけていないらしい。
 そういや再婚するんだったよな。
 四次元屋敷では「式には呼んでくれ」などとホザいてみたら、今度は蔵馬が本気にしてしまった。
 ガラじゃないってーのに、聞かねえんだ。

 やがてハサミやら櫛やらを持ってくると、蔵馬はタオルを幽助の肩に巻きつけるようにかけた。
 その上にやわらかい布。
 テーブルの上に鏡まで置かれると、本当に床屋に来たみたいだ。

「苦しくないですか?」

 首の後ろで布の端を結びながら蔵馬が聞く。
 指が触れるのがくすぐったい。

「いや、だいじょーぶ」

「ならいいですけど。でも、どうして俺のところへ? 螢子ちゃんの方が貴方は嬉しいんじゃないんですか?」

「ああ? アイツじゃムリムリ。すっげぇ不器用だから。料理だって食堂の娘のクセして俺の方が美味いんだぜ」

「じゃあ、カット料は幽助の手料理ということで」

「…………げ、マジ?」

「マジです」


 にっこり、と蔵馬の笑顔が鏡に映った。
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