飛蔵飛&蔵幽小説
□夜の訪問者 〜籠の中の鳥〜
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こうなることは、何となくわかっていたような気がする。
飛影が目覚めた時、最初に視界に飛び込んできたものは天井だった。
空気が違う。魔界ではない。
息が詰まりそうなくらい、平和で清浄な。
そのまま目線だけを巡らせて、部屋の主を探す。
ヤツは椅子の背もたれに肘を置いて、飛影に向かって微笑んでいた。
――――人間、南野秀一の姿で。
「起きた、飛影?」
「キサマよくも!」
斬りかかろうとしたが、身体が思うように動かなかった。
痺れ薬か。
「けっこう深い傷もあったから。黒龍波を続けて二度も撃ったんです。もう少し身体を休めた方がいいですよ」
しゃあしゃあと蔵馬はのたまう。
飛影の批難を避けるための防衛策であることは明白だというのに。
舌打ちをしたものの、すでに身体の自由は奪われた後のため諦めるほかはない。
覚えていろよと付け加えるのを忘れず、再び目を閉じた。
だが一度意識がはっきりすると疑問が頭の中でうるさく湧き出してきて、眠気は完全に吹き飛んでしまった。
苛立ちをあらわに、飛影は蔵馬に声をかけた。
「おい」
「何ですか?」
「あれからどうなったんだ?」
幽助が魔族として覚醒し、霊界獣に乗って現われたのは覚えている。
馬鹿馬鹿しい、だがこの上なく幽助らしい生還に、蔵馬と一緒に生まれて初めて腹の底から笑った。
戦いを譲った以上最後まで見届けるつもりだったのに、“冬眠”は待ってくれなかった。
薄れゆく意識の中で、幽助が負けたら命はないなと思った。そして勝ったとしたら、己れは再び人間界にいるだろうと。
蔵馬が魔界に残る選択をしたならば、いざ知らず。
「戦いの途中で、先祖と思われる闘神に操られるように幽助が完全に覚醒しました。さすがの仙水も勝ち目はなく、亡き骸と魂は樹が亜空間へ連れていきました。死んでも霊界には行きたくない、が遺言だそうですよ」
「俺は死んでも人間界には戻りたくなかったがな」
「実際死んでいたでしょうね。黒龍波を撃った後の貴方はひどく無防備だ」
おかげで手当てはしやすくて助かりましたけど、と揶揄するような声に不機嫌の度合いを増す飛影だ。
目覚めた時に見た天井に視線を移し、胸の内に燻る問いをもう一つ。
「……貴様は何故人間界に戻った? あの時、貴様も身体は完全に妖化したんじゃないのか?」
「やっぱりそうきましたか。でも、あの時点では完全に、ではないんですよ。幽助の死を直視したことにより感情が昂ぶり、同時に強い魔界の臭いを嗅いで瞬間的に妖狐に戻ったに過ぎません」
「だが、あのまま魔界に残れば、そのまま妖狐として生きることもできたんだろう」
「そうですね。人間界に戻る選択をしたのは、確かに俺の意思です」
「だから、何故だと聞いている」
「答えは簡単ですよ。誰よりも魔界に残りたかった“彼”が帰ると言ったからです」
――オレはオレを操った奴を探しに行く!!
――このままじゃ、オレの気がすまねーんだよ。真剣勝負に横ヤリ入れやがったんだぜ。タダじゃおけねーな。
「結果はどうあれ、あれは幽助の望む戦いではなかった。あの場では誰も、仙水を助ける力を持っている者はいなかったんだ。飛影、貴方にも身に覚えがあるでしょう」
暗黒武術会において、大会運営側の陰謀によるメディカルチェックに妨げられて、飛影は覆面戦士とともに試合の棄権を余儀なくされた。
抗う選択肢すら与えられず、誰かの、もしくは何かの思うままに流される。それがどれほど屈辱的なことか。
「その幽助が、コエンマから40時間も考える猶予を与えられたにも関わらず、即答したんですよ」
――帰ろうぜ、人間界に。