飛蔵飛&蔵幽小説

□吸血鬼
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「寄越せ……」

 不意に腕を引き寄せられて、蔵馬は飛影の上に倒れ込む形となった。
 とはいえ、その間に自らシャツのボタンを数個外して、胸元をくつろげる程度の余裕はあったりする。

 飛影は人間の服を嫌う。
 特にボタン付きのものはまどろっこしいのだと、放っておくと力任せに裂かれてしまう。

 とはいえ、“ごく普通の高校生”が家の中で素肌にマントを羽織って勉強していたら、今度は受験ノイローゼかと誤解される。
 身につけるべくして身につけた早業だ。

 熱い吐息が首筋にかかり、体温が上昇していくのを蔵馬は感じた。
 皮膚に突き立てられるわずかな痛みの後の恍惚を思い、その訪れを待つ。

 だが、焦らすにしては長すぎる間を破ったのは、飛影の不機嫌そうな呟きだった。

「跡を消したな………」

 蔵馬は深く深く溜め息をついた。

「当たり前でしょう、体育の授業だってあるんです。毎回完全に消しますよ」

「気に食わん」

「なら、決して消えない傷でもつけますか?」

「……何だと?」

「貴方のものだと飽きるほど言ってもわからないなら、どうぞ好きにして下さい。望むならこの命も」

「蔵馬!」

 続きを遮るように口づけられた。

 いっそ、このまま己れの舌を噛み切ってしまえばいい。
 殺しもせず、仲間にもせずに夜ごと微量の血を求めるのは何故。

 すでに永遠に近い命を己れが持っているから?

 あふれた唾液が首筋を伝う。

 早く、欲しい。

「消えない傷をつけないなら、俺は何度でも傷を消しますよ。貴方が俺の血を吸いつくすまで」

「その手には乗らん。妙な術でたぶらかされて腹を下すのがオチだからな」

「ひどいですね、人を化け狐のように」

「事実だろう」

 返事の代わりに、蔵馬は小さく笑った。

「時が来たら、必ず俺は貴方だけのものになります。だから傷が残るまで待っていて下さい」

 その時は飛影自身にもよそ見を赦さないだろうけれど。

 一瞬傲慢な妖狐が現れる。

 ようやく見つけたのだ、永遠を共に生きられる相手を。
 たやすく逃がすことはしない。
“南野秀一”の血を餌にしてでも。

 より強い力を得るために吸血鬼に変えられることが当初の蔵馬の望みだったが、飛影が望まないならそれでもいい。

 早く、欲しい。
 所有の証が。

 いつか飛影を己れだけのものにするという、その証が。

「……傷、消えたままでいいんですか?」


 誘うように囁くと、耳元で舌打ちが聞こえた。



END


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