妖蔵小説
□REINCARNATION
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満月の夜だった。
人気がなくなり、静まり返った公園は昼間とは別の場所のように感じられる。
例え妖怪が変化もせずに街灯の下に佇んでいたとしても、誰かに見咎められる可能性は低い。
万一異形に気づき恐れおののいて騒ぎ立てられたところですぐさま姿を消してしまえば、闇への不安が見せた幻ということになってしまう。
無論、人間に混じって生活している妖怪は決して騙されないだろうが。
バレたら一週間閉め出しは確実である。
「蔵馬……」
自分をこの世に繋ぎとめた者の名を呟く。
本来ならば、自分は蔵馬に“妖狐”の力を返して消えるはずだった。
南野秀一という人間の器が強大な妖怪の力と心を受け入れられるようになるまでの封印。それが己れの存在意義。
だが、人間の“感情”が芽生えた蔵馬は己れの都合で創り出した、自我を持ったもう一人の自分を消滅させることはできなかった。
一度は鴉との戦いで妖狐を消したものの、蔵馬の強い意思がこの世にとどめた。
これから自分と蔵馬がどうなるかなど見当もつかない。
ただできることなら、いやできるかぎり蔵馬と共にいたいと思う。
蔵馬に望まれるうちに、妖狐の中でもそれが望みになりつつあった。
叶うはずがない望み。
叶えてはいけない望み。
感情が溢れる。
こんな夜は蔵馬のところには行けない。
「……オレを消すな。もうお前とは離れたくはない」
蔵馬に聞かせるわけにはいかない本心。
風に流れて何処にでも行け。
妖狐の想いは思わぬ近くで止まっていた。
「手を貸してやろうか?」