妖蔵小説
□REACTION
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窓が細く開けられた。
闇夜から覗くのは一つの白銀の影。
ためらいがちに部屋の中を窺う様子だ。
「…………蔵馬?」
部屋の主の名を呼ぶ。
それは己れの名前でもあった。
だが、「蔵馬」が二人いてはややこしいからと、相手を蔵馬、己れを妖狐とした。
相手には人間としての名があったことに思い当たったのは、互いの呼び名に慣れた頃。
「とはいっても俺は人間じゃないし」と蔵馬は苦笑いした。
元々「蔵馬」であるべきは相手だ。
仮の存在である自分は妖狐で充分。
実際蔵馬から呼ばれる名前ならば何でもよかった。
その蔵馬は妖狐の帰りが遅くなった時、普段ならば「遅いぞ」と応えか拳骨を返す。
なのに今夜は何の出迎えもなく、部屋の明かりも消えていた。
この上なく機嫌を損ねてしまったかと、妖狐は意を決して己れが通れるくらいに窓の幅を広げた。
途端、身を切るような冷たい風が部屋の中に流れ込む。
蔵馬が妖狐の帰りが遅くなることを嫌うのはそのためだ。
「南野秀一」の肉体はさほど頑丈ではないのだと。
妖狐とて、矢も盾もたまらず帰って来たい。
だが、昼間の妖狐の身の置き所である幻海宅でのこまごまとした用事を片付け終える頃には夜がすっかり更けてしまうのだ。
12月は何かと忙しいんだよと、文句を零す妖狐の頭にハタキが見舞われた。
無論、それなりの報酬は支払われることになっている。
人間界では「あるばいと」などというらしい。
クリスマスも間近。
ちょっと蔵馬を驚かせてやりたかった。
だから、帰りが遅くなている理由は蔵馬には話していない。
それが余計に蔵馬を苛立たせているのだが。
心の中で詫びて、部屋に入る。
なんだかんだいって鍵をかけていないのが嬉しい。
急いで窓を閉めた。
確かに部屋の中に蔵馬の気配はあった。
だが、聞こえるのは穏やかな寝息のみ。
まさか。
妖狐は足音を忍ばせて、寝台に近づいた。
掛け布団が人型に盛り上がっている。
そして枕元には。
「!!」
妖狐は思わず噴きそうになった。
己れの日頃の行いが行いだけに、蔵馬が妖狐に寝顔を見せることなどまずない。
なのに今夜はどうしたことだ。
わずかに頬が蒸気しているかのよう。
(熱があるのか…………?)
蔵馬の額に手を当ててみると熱かった。
この前窓を開け放したまま言い合いをしたのが原因か。
手を引きかけて、蔵馬の表情に惑う。
伏せられた目。
軽く開いた唇。
吐息が誘うように妖狐に絡みつく。
寒い、と。
気がつけば、妖狐はそっと布団をまくり上げ、手探りで蔵馬の胸元の釦をはずしていた。
身体が冷えぬように包みこむと、小さく蔵馬が微笑んだように見えた。
首をのけ反らせて、先を促す。
応えて、妖狐が白い肌に口づけようとした時。