妖蔵小説
□MISCONCEPTION
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「…………蔵馬。いつまでそのゴミを置いておくつもりだ?」
苛立たしげな舌打ち。
窓枠から中へは決して入ってこようとしない。
対して、妖狐はぴたりと蔵馬に寄り添っていた。
威嚇するように飛影を睨んでいる。
まるで縄張り争いをする猫のようだ、と蔵馬は心の中で苦笑しつつ、妖狐の頭の上に手を置いた。
「まあ、一応俺が作ったんだし、責任はあるかなあと」
それだけか?と妖狐は蔵馬を見上げる。
だが、これ以上飛影の機嫌を損ねるわけにもいかない。
案の定、それだけでもフンと飛影は横を向いた。
「とりあえず、これ。いつものヤツ」
用意しておいた、薬草が入った小さな巾着袋を差し出す。
何に使うかは聞いていない。
風の噂で流れてきただけだ。
「雪菜ちゃん、お大事にね」
「黙れ」
蔵馬の手から巾着袋をひったくると、飛影は身を翻して姿を消した。
興味しんしんなのは妖狐だった。
「雪菜って誰だ?」
しまった。コイツがいたんだった。
てっきり知っていると思っていたが、蔵馬と自分に関係ないことは頭に入っていなかったらしい。都合のいい、記憶力だ。
おかげで、厄介なことになった。
まさか本当のことは言えない。まだ長生きはしたい。
瞬時に頭を回転させる。
導き出せた答えは一つ。
「飛影の想い人だよ」
妖狐は部屋の端までぶっ飛んだ。
「ウソだろ!? アイツなんかがどうして」
「うん、だから片思い」
これもこれで命がけのウソだ。
「飛影も飛影なりに真剣なんだから、邪魔したら……………」
「おもしれぇ。ちとからかってやるっ」
蔵馬の言葉は全く妖狐には届いていなかった。
止めようと手を伸ばしたが、時すでに遅し。
尻尾すら掴み損ねて、空を切る。
所詮、人間の身体で妖狐を押さえられるわけがないのだ。
妖狐は飛影の後を追って、外に飛び出していた。
残された蔵馬は、うっかり妖狐が失言しないことを祈るばかりだった。