妖蔵小説
□FRUSTRATION
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妖狐は退屈していた。
暗黒武術会が終わってのち、蔵馬が"南野秀一"として生活している街にくっついて来たものの、一目で人間ではないとわかる妖狐は家の中には入れてもらえない。
高校についていくなど論外だ。
約束を破ったらもう相手にしないと脅されて2,3日はおとなしくしていた妖狐だったが、5日目ともなると我慢の限界だった。
(……こんなんじゃあ、お前の中にいた方がマシだったぜ)
まともに会話もできない。
側にいることもできない。
遠くからこっそりとストーカーのようにつけ回しているだけ、なんて。
「くっそ〜〜〜〜〜〜〜」
寝床代わりの公園の木の上で、くやしまぎれに力いっぱい横の幹を殴りつけた。
――――と。
ボトッ。
大きく揺れた木の上の方から落下した黒い物体。
「ん?」
ひょいと下を覗けば、それはしたたかぶつけたらしい頭をさすりながら起き上がろうとしている。
そのいつも逆立った状態を維持している不思議な髪形に覚えがあった。
最悪な気分のところに最悪な相性の相手に会ってしまった。
それは向こうも同じだったようで、不機嫌さをあらわにして妖狐を睨み上げた。
「……貴様」
「んなとこにいるてめえが悪いんだろ!」
だが意外にもガルルと威嚇する妖狐を、飛影は鼻であしらった。
そのまま背を向けて歩き出したので妖狐は拍子抜けだ。
「な、なんなんだよ!!」
「くだらん」
短い答えにカチンとくる。
相手にする価値もないと評されたみたいで気分が悪い。
(そりゃあてめえなんかに相手にされなくったって構わねえけどよっ)
自分一人が突っかかっていっていただけなんて、子供というしかない。
カァ――と頬が熱くなるが、それは飛影への怒りに転化された。
「けっ。いくら武術会が終わって蔵馬に会えねえからってスカしてんじゃねえよ!」
それこそ論点のズレた子供的なセリフだったが、どうやらそれは飛影にとっても地雷だったらしい。
「なんだと……」
振り返った姿が臨戦態勢だ。
鋭い目つきが図星だったと言っている。
よっしゃ!と妖狐はほくそ笑んだ。
「へ、えぇ、イイ顔するじゃねえか。ちょうど退屈してたんだ。付き合えよ」
「そんなに殺されたいか?」
「やってみろよ」
ザアア――――……と風が流れる。
色づいた木の葉が一枚、緑に交じって二人の前に舞う。
地についたのが合図だった。