妖蔵小説

□TRANSFORMATION OMAKE
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「いいか。絶っっ対おとなしくしていろよ。何を言われても、何をされてもだぞ。もし約束を破ったら、お前とは二度と口をきかないからな」



 いささか子供っぽい脅しだとは思ったが、妖狐には効果覿面だった。
 うりゅりゅと涙を滲ませ、

「そ、そんな〜。ずっと側にいていいって言ったじゃねえかよ〜〜〜。今さらオレを捨てるのか蔵馬〜〜〜〜〜っ」

「それがいやだったら言うことをきけ」

「…はい」

 そんなやりとりをしながらホテルに帰ってきた二人は幽助の部屋の前に着いた。
 夜は浦飯T優勝の宴会だと聞いていた。
 ドアの向こうからもれる声やら、飲み物をつぐ音やら、ビンを鳴らす音やらから宴会はすでに始まっており、そろそろ皆デキ上がってきているようだ。
 イヤな予感を覚えつつ、蔵馬はドアを開けた。

「ただいま」

 途端、

「おっかえりくらま〜〜〜〜〜〜〜っ!」

 幽助が蔵馬に気づき、いきなり飛びついてきた。
 プ〜ンと漂う酒気。
 ヤバイ!と思った時には遅かった。
 事情を説明し終わるまでは後ろで待っているように言ったはずの妖狐がゴツン!と幽助を殴った。

「蔵馬はオレのだ!」

「〜〜何すんだ、てめえっ!」

 幽助が掴みかかるより早く、蔵馬は妖狐の頭をはたく。

「おとなしくしていろと言っただろう」

 幽助は蔵馬の後ろからじいいっとこちらを睨むヤツにきょとんとしていたが、

「げっ、妖狐!!」

 その正体に気づき、ズサッと飛び退る。

(あれ…でも蔵馬もいたよな……)

 はたと考え込む幽助へ、
「話すと長くなるんだ」と蔵馬。

「皆にちゃんと説明したいから、とりあえず中に入れてくれないか?」

「おぅ、そうだよな。なら入っていいぜ」

 無意味にふんぞり返る幽助にうながされて蔵馬と妖狐は部屋の中に入った。
 もちろん、妖狐はこっそり幽助の足を踏んでいくのを忘れなかったが。


***************


「なっにぃ〜〜〜。じゃあ、『前世の実』の副作用で蔵馬が南野秀一と妖狐に分かれちまったってか〜〜〜〜〜?」

 蔵馬の話を聞いて青くなったのは桑原だ。
 もしかしたら俺も…と美しい魔闘家鈴木への恨み言を連ねる。

「それ以外は何ともねえのか?」

 少し酔いが覚めかけた幽助が気づかうのへ、

「ああ、大丈夫だ」

 胃と血圧の心配以外は…というのは心の中のセリフ。
 ――――と、

「あの〜、蔵馬くん」

 いつの間にか女性陣が蔵馬の周りに集まっていた。
 何ですかと先をうながせば、

「お願いがあるんですけど……………」 

と、言いにくそうに螢子は顔を赤らめた。

「実は……………」

 ちらりと妖狐を見る。


「ああ、妖狐がどうかした? 恐い?」

「いいえっ、そうじゃないんです。その……触ってみたくて」

「あ?」

 妖狐はくわえていたスルメをぽろりと落とした。

「…オレは見せ物じゃねえ」

 ボソッと呟いた妖狐の抗議を無視し、蔵馬は女性陣に笑いかけた。

「いいですよ。狐耳に狐尻尾なんて人間界には物語の中にしかいないからめずらしいですよね」

 蔵馬に頭を撫でられ、妖狐はあっさり機嫌を直した。
 もっととすり寄せた頭は女性陣の方へ。

「あとは彼女達にやってもらえ」

 ぶぅと妖狐は頬をふくらませたが、約束がある。
 口をきいてもらえなくなっては適わないとおとなしくされるがままになった。

「けどさ、お前と妖狐って仲いいよな。さっきも抱きついた時殴られたし、今だって………」

 と幽助がふざけて蔵馬に抱きついて見せれば、ギン!とこちらを振り返る妖狐だ。
 抱かせてくれ云々の説明を省いた蔵馬としては苦笑で誤魔化すしかない。

「う〜ん。元は同じ一人だからなあ……………」

 もう少し説明を付け加えておこうと言いかけたところへカチャリとドアが開いた。

「飛影!」

 あまりにも意外な人物の登場に皆が異口同音にその名を呼ぶ。
 彼の性格を考えるとこんなドンチャン騒ぎは好まないはずなのに。

「〜〜ってっめぇ―――――――っ!!」

 飛影の姿を認めるなり、ただでさえ切れかけていた妖狐の自制心は完全に両断された。
 女性陣の手を振り払って飛び上がると飛影の前に着地し、臨戦の構えを取る。
「ど――してあの時邪魔しやがった!!」
 湧き上がる殺気を隠しもせずに問う妖狐へ、

「証拠はあるのか」

「剣にてめえと同じニオイが残ってたんだよっっ」

「フン。動物が」

「あんだと―――――――っ!? 表に出やがれ!!」

「望むところだ」

 そして、今度は窓から飛び出していく二人だった。


***************


「…………………」

 蔵馬は頭痛がする思いだった。
 できることなら裏浦島との戦いでの妖狐のイメージを壊したくなかったが。
 呆然としている皆を見渡し、無理だなと溜め息をつく。
 せめてもの救いは妖狐が「蔵馬 I LOVE YOU♪」系の言葉を口走らなかったこと。

 ――――が。

「ねえねえ、蔵馬くん」

 再びオズオズと声をかける女性陣。

「妖狐くんとどんな関係?」

「ブッ。ガフッガフッガフッッ」

 螢子に単刀直入に尋ねられ、思わずムセる蔵馬だ。

「あの〜、それはどういう…………?」

「だって、なんか妖狐くんって蔵馬くんにラブラブなんだもん♪」

「ズバリ本当のところを教えとくれ」

 ズイと身を乗り出すぼたんに、

「昨今流行りだからねぇ〜」

 静流は煙草に火をつけ、こちらの反応を窺う。

「………………」

 硬直してしまった蔵馬の肩をポンと幽助は叩いた。

「ま、頑張れ」



 どこかで地響きがし、風が巻き上がる音がした。



END


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