飛蔵飛&蔵幽小説
□夜の訪問者 〜籠の中の鳥〜
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「ヤツは単細胞だからな」
どうせ近いうちに後悔することになる。
咽喉の奥で笑えば、でしょうねと蔵馬も応じた。
もう浦飯幽助は、人間ではない。
その変化は平穏な日常の中で、少しずつ、侵食してくるはずだ。
いつか、己れの居場所は人間界では飽き足らないことに気づくだろう。
蔵馬のように、全てわかっていて人間界にとどまり続ける妖怪もいるが。
「でも、幽助なら大丈夫ですよ。きっと、すぐに退屈なんて感じている暇もなくなるでしょうから」
「厄介事を呼び寄せることだけは天才的だからな」
「そういうことです」
「……お前の方はいいのか?」
「何がです?」
「妖狐に戻ったことで、人間の身体に影響はないのか?」
「おや、心配してくれるんですか?」
問い返した途端、飛影は顔を背けた。
からかい過ぎては、また怒らせてしまう。
それ以上突っつくのはやめて、蔵馬は正直に答えた。
「出ない、とは言えません。“南野秀一”は今回のことで、より妖怪に近くなったはずです。何かのきっかけで化けの皮が剥がれてしまうかもしれませんね」
「……それでもまだ、人間のフリをし続けるのか?」
「もうしばらくは。俺は理性派なんで、そう簡単にボロは出さないと思います」
くだらんことを、と飛影は吐き捨てた。
さっさとボロを出せばいいものを。
そうすれば…………。
飛影の心中を汲み取って、蔵馬は言葉を継ぐ。
「貴方は、魔界に残りたかったんですよね」
「当たり前だ。もう人間界になど、用はない」
「あの後、すぐに霊界の者が結界を張り直しはじめていましたよ。貴方も俺も、また籠の鳥です」
「誰のせいだと思っている?」
「俺のせい、でいいですよ」
「…………何?」
開き直ったような蔵馬の言葉に、飛影は半ば呆れて睨んだ。
どうせロクなことを言いはしないんだろう。
応えるように、蔵馬はクスリと声をもらした。
「貴方を閉じ込めておけるなら、俺も一緒に籠の中に入ります。扉を閉めたとしても、どうせすぐに錆びて崩れてしまうんですから」
どうかその時までは、互いを狭い鳥籠の中に閉じ込めて。
恨みも憎しみも全部、自分に向けばいいと。
誘うような言葉で飛影を揺さぶる。
人の身体が動かない時にかぎって。
「籠が壊れたら、俺は出ていくぞ」
「行きませんよ。俺を迎えに来ます」
「自惚れるのもいい加減にしろ」
「じゃあ、俺が迎えに行きます。逃げても無駄ですよ」
隠そうとするものを見つけるのは得意なんだ。本業は盗賊だからね。
付き合いきれん、と飛影は目を閉じた。
まるで人間同士の馴れ合いだ。
だが、蔵馬相手だとさほど不快ではない己れが何より受け入れがたい。
蔵馬は言葉通り、飛影の前まで“追って”きた。
そしていまだに自由にならない身体を抱きしめると、そっと口づけを落とした。
END