妖蔵小説

□告白
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 ギシッとベッドが鳴った。

 自分の身体の上にのしかかる、人の体重。
 かなりの大柄だ。

 重さで誰かはわかった。

 目を開けて、睨みつける。

「……妖狐、何をしている?」

「何って、夜這い」

「蹴り潰されたいか?」

 蔵馬の口から出る言葉にしては品がない。
 だが、これくらい言わないと妖狐には効かないのも事実。

「さっさとどけ」

 そう凄めば諦めて離れるはず、だったのに。

 思考と行動は動物並みにくせして、さすがもう一人の“蔵馬”。
 学習能力と知恵はあった。

「……蔵馬、お前はオレのことキライなのか?」

 いつまで経ってもおあずけをくらわされている妖狐はスネた声をもらした。

 蔵馬が自分を必要としていることはわかっている。
 妖狐のために小さなマンションを借り、念願の二人暮らしも始まった。

 なのに、どうしても身体を許そうとはしない。

 本当は嫌われているのではないか。
 そんな不安が胸をよぎる。

 こんなふうに、正面からきっぱりと拒絶される夜は、特に。

 蔵馬にしてみれば、同性に抱かれて悦ぶ趣味はないだけなのだが。

 さて、どう返したものか。
 悪戯な命題が浮かび、ひそかに笑む。

「好きだよ」

 答えてやると、ぱっと妖狐の顔が輝いた。

「じゃ、じゃあさっ」

 性急に事に及ぼうとするのを、やんわりと止める。

「でも、女役になるのは嫌いだ」

 艶やかな翠の瞳が、妖狐を射抜く。

「お前はどっち?」

「え……」

「俺に好かれたい? 嫌われたい?」



END


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