Novel
□Share an umbrella…
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ふたりで
ひとつ。
Share an umbrella…
夜7時。夏とはいえ、外は大分暗くなったが一つだけ明かりのついている部室が一つ。
そこは男子テニス部なわけなのだが、練習はとっくに終わっていた。
部屋の中にいるのは、現在ペンを机の上でとんとんとたたいている跡部と、それをつまらなそうに眺めている忍足だけであった。
「なー、跡部終わった?」
「…まだだ。」
跡部は、苛立ちからかいつもより低い声でそう返事をした。
苛立ちの原因は、今書いている監督への報告書が思ったよりも進まないことと、忍足の執拗な質問であった。
とくに忍足の質問が原因なのだが。
「あのなぁ、俺先に帰ってろって言ったじゃねーか。もうくれーんだしよ。」
確かに苛立ちの原因でもあったが、跡部が忍足を帰らそうとしている理由はもうひとつあった。
ただ純粋に忍足を心配しているからでもある。
すると、忍足は跡部の背後から抱きつくと、安堵のため息をした。
「心配してくれるん?」
「アホ。」
跡部も忍足に続いてため息をすると、報告書の続きを書き出す。
部室の中では、ペンの走る音と、時計の静かな傾きの音だけがしていた。
しばらくすると、流石に飽きはじめてきた忍足は、どこからかペンを持ち出すと、報告書の隣でラクガキを始めた。
「…オイ、邪魔するなら帰れって。」
「ええやん。邪魔はせえへんって。」
楽しそうな顔でラクガキをし始める忍足を見ると、跡部はどうも強制してやめさせることが出来なくなった。
跡部は自分でも甘いと感じている。
忍足をほっといて、跡部は報告書を書くことに専念した。
しかし、いつまでたっても、報告することが多すぎて終わりはしなかった。
流石に疲れを感じ始めた跡部は、ふと忍足のラクガキを見た。
「相合傘〜」
忍足は、楽しそうに自分と跡部との相合傘を書き上げ、満足そうにそれを眺める。
「な、何やってんだよバカ!それ監督に出す報告書じゃねーか!」
「ええやん〜俺と跡部の愛を監督に見せつけへん?」
やるか、このバカ!と、跡部は罵声を忍足に浴びせると、痛くない程度の強さで忍足の頭をたたく。
しかも、忍足が書いたものは、油性のペン。消しゴムで消えるものではなかった。
跡部は、強引に忍足のペンを奪うと、ガシャガシャと自分の名前を消した。
「ああ!もったいないやんか〜・・。」
忍足の残念そうな顔を見て、跡部はざまあみろと、優越感に浸っていた。
すると、忍足は跡部の手を掴むと、掴んだまま跡部の手を使って、跡部に自分の名前を書かせた。