独立への戦火

□第二章
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山から吹きおろす風の強い日。風は北から南へ吹いてきた。肌寒く少し湿っている。日本では“やませ”と呼ばれる風の一種だが、こんな季節外れのやませなんて吹いたことは無い。初夏が訪れる6月に吹くと言うのも、また微妙であるが、シュラウド基地周辺に吹き荒れていた。基地から町へと続く一本道をひたすら走るオープン型のHWMMVが見える。HWMMVに乗っているのは迷彩服を着た男性が4人と女性が1人。但し助手席の男は私服。プラス、荷台に禍々しいチェーンガンが固定されていた。
「ふぁぁあ…ねむ、ねむ…」
気だるそうに欠伸をしながら間抜けな呟きを漏らす助手席に座る男。それを聞いて、運転していた女性はこめかみに血管を浮かばせた。
「クーヤ中尉、締まりのない顔は止めておきたまえ。でないと…」
後部座席から呟く男性の声が聞こえた。
「でないと…?」
まだ眠そうにしていた助手席に座った男性こと神山空也は続きが聞きたく聞き返した。が、その瞬間、左頬に強烈な衝撃を感じ、脳震盪、視界がホワイトアウトし左に右に倒れる。
「うわっ、中尉落ちます!落ちます!てかあんたシートベルトしてないんスかー!?」
空也の真後ろに座る男、声からして敬語で話すケン・レイティス少尉が身を乗り出しながら、空也を掴み支えた。
「あっひゃっひゃっひゃ、お花畑が見える〜♪ほらほら〜」
「はあ……」
他人の苦労も知らずに、半分逝っちゃってる呟きをする空也は、殺伐とした荒野を指さした。
「放っておけっ」
運転席に座るスレンダーな女性が答えた。
「ですが、少佐…」
ケンは空也を気にして反論の目を向けた。運転をしているカレン・フェデリック少佐、生まれも育ちもシュラウド出身であるが士官学校卒業後、首都アステルポートで10年間勤務、そして一年前、戦乱に伴い首都アステルポートからシュラウド基地に異動してきた若い佐官だ。実力は空也に近い腕前を持つことから、シュラウドへ異動した直後、性別・部隊を問わず熱烈な人気のある。真っ直ぐで真面目な性格の持ち主である彼女は、どことなくケンに似ている。その彼女が、
「起きろ、クーヤ!貴様が私へ働いた無礼、覚えているぞ!!」
「あれ?荒んだ大地が見える」
「おい…貴様聞いているのか?」
ようやくお目覚めの空也に、カレンはドスを効かせた低い声で尋問めいた質問をしながら、空也の服を力一杯引っ張った。
その拍子で空也は「おわっ!?」と驚き、引っ張られた反動でカレンへダイブ。
ドカッ!!
キキキ――――ィ!!
「おいおいおい――!!(`Д´;)」
鈍い音と同時にカレンが急ブレーキした事により、後部座席真ん中に座る男性が悲鳴を上げた。ちなみにエンスト。
「ぬばっ!!」
痛みに嘆いたカレンが、数秒後、苦し紛れの驚き。
「…大丈夫か?みんな………うおぉぉぉ!!?」
後部座席真ん中の男の問いかけと絶叫に皆、意識をはっきりさせた。はっきりさせたのは良いとして、前席でとんでもないハプニング発生。カレンの右頬に熱い唇、鼻には裏ピースされた指が突っ込まれ、ギアを握る右腕に馬乗り状態……よくありがちなちょっとした事故。プルプルと怒りに震え出すカレンを見て、空也はガクガクと恐怖に震え出す。要するに、カレンにキスしておきながら、カレンに鼻フックをかまし、カレンの右腕に息子さんが乗っかっている空也が居た。今のガクガクする空也にカウンターを食らわせたら、空へ飛んで星になりそうだ。
ガゴッ!!
「プロモッ!!」
カウンターではなく、下から急上昇してきたアッパーを食らった空也は顎を抑えて悶絶した。
「お見事」
「……理不尽だけど」
カレンの後ろに座るいつでも冷静、今も冷静なミロス・インターク大尉が誉めあげ、ケンがボソッと突っ込んだ。
「ぶっひゃっひゃっひゃ、グッジョブ!!クーヤ!!」
ケンとミロス大尉に挟まれた真ん中の男…ラファエレ・フィンガーハット中尉がバカ笑いをしだした。
ドスッ!!
「ゴハッ!!」
カレンが飛んで、神にお祈りするような握り拳を作って振り下ろしたのだ。脳天を撃墜。血こそ吐かなかったが、ラファエレは「ぬあっははは、逆鼻フックとは…プッ…死ぬぅ!笑い死ぬぅ〜!!ぎょははははは!!」などと呟き、拳から親指を上へ立てた状態で空也に向けていた。カレンのこめかみに又も血管が浮き、今度は頭突きを開始した……艦砲射撃のようにゴスゴスと。その間、空也はぐて〜としながらダウン。
「鬼ばばぁの対空砲が……ぉ…に……」
そう言って青ざめパタリと倒れた。その間、ミロスが後部ドアを開け、運転席に腰掛ける。運転手交代。
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