独立への戦火

□第一章
1ページ/11ページ


2008/6/9 9:32 シュラウド基地周辺

五日後――。
青空というキャンパスにやや多めの白い雲が風に従い一定の進路で南下する下では、一台のタクシーがシュラウド基地へと向かう荒れた道を疾走していた。基地付近はいつヴェルの戦闘機が襲ってくるか分からないので、住民は基地から10km以上離れた場所で生活している。道の左右の風景はどちらも同じ草原と山、あとは畑だ。時折、農作業をする人々を見る。そんな田舎の風景を見て、魅了される者がいる……が、しない者が殆どだ。至る所に戦闘の名残である戦闘機の残骸が放置され、それでも人々は懸命に畑を耕し、元の状態に戻す。その点において、“人間はいつでもやり直しができる”と言う美点があるのは確かだ。
そうこうする内にタクシーがシュラウド基地に付いたようだ。後席のドアが開き、中から出てきたのは、士官の制服を身に纏い帽子をきっちりと着こなした小柄で若い少年だ。タクシーのトランクから車輪付きの長方形で大きな旅行用のかばんを降ろし、肩にはセカンドバッグを持っていた。
少年は支払いを済ませ、シュラウド基地正門ゲートに立つ二人の警備員へ向かう。ゲート周辺でカラスの群れが飛び交い、黒い羽をまき散らし少々嫌悪した。警備員はNSF(国家防衛軍)の歩兵の格好で、野戦仕様のライフルを肩に掛けA4サイズのバインダーを持っていた。少年は警備員に軽く会釈をし自分の身柄を明かす。
「ケン・レイティス…」
警備員は考えるように呟き、バインダーに留めた基地入場表を捲って確認した。「ああ聞いている、今日来る新入りだな?」
警備員に尋ねられ少年は軽く相槌を打ち、「はい」と返事する。
そして警備員は、ゲートに降りた左右の黄と黒の斜線状に塗られた、自動の細長いバーの門を上げた。少年は90度回転した門を通り、建物へと足を運ぶ。その背中を見て、タバコを吹かした一人の警備員が呟いた。
「好き好んでこんな最前線に来るなんて…最近の若い奴はわからねえな」
一方、もう一人の警備員は「はっはっは」と苦笑した。そして、
「まあ、鳥のエサにならないように祈ってやろうじゃないか」
と軽口を言った。

建物へ足を運ぶ少年はその風景を見渡した。
最前線基地であるが故に数ヶ所損壊した建物や、バルカン及びミサイルで抉られた場所が点在していた。
「ここがあのシュラウド基地か……」
やはり激戦地区だと思い少年は呟いた。
「外国人の傭兵を中心に志願兵ばかりで構成され、エース中のエースが集結しているスターチア最強の基地」
そして基地の評価。
「ヴェル王国を倒すために、これほど相応しい戦いの場所はない!!」
まだ幼さを残すその顔は18歳という若さだがきりっとしている。熱い思いが冷めきれず、少年こと“ケン・レイティス小尉”は感想を口にした。独り言ともいう。帽子を軽く添え直し眼鏡の右フレ―ムを押し上げ掛け直した。と、その時――
「「こら、待ちなさーい!!」」
若い女の声がした。正確には二人がハモった声だ。耳を澄ませば、ダダダダッと走る足音が聞こえる。
ダンッ!……跳んだようだ。
「えっ?」
ケンは振り返りつつ驚きと疑問の台詞を吐く。見えたものは棒アイスを口にくわえ、右手には紙袋を抱え、左手にはジュースを持って跳んだ外国人の男だった。数瞬、ケンは放心し、足がカクっとなり後方に倒れそうになった。
ザンっと軽やかに男は着地した。
「んんっ?」
男はケンを見て、何かに気づいたような眼差しで呟いた。男が近づきガバッと倒れそうなケンを右手で抱く。
「ひっ!?」
と悲鳴を上げるケン。お構いなしに男は訊く。
「君、新入り君だね」
「……」
「ようこそシュラウドへ
男は満面の笑みで歓迎の意を言い終えると右手を放した。放心したままのケンの体は支えが無くなり、重力の加速をつけて倒れる。
ゴン!
頭を打ったことにより、意識を取り戻す。後ろから二人の女が走ってきた。
「大丈夫!?ごめんね」
「待てーー!!」
前者の女は走りながら、ケンに謝った
。後者の女はそのままこめかみに血管を浮かべて走り去っていく。
「うちの商品返しなさーい!!」
「あたしのジュース返しなさーい!!」前者も後者も外国人の男を追いかけながら怒鳴っている。外国人の男は「あっはっはっは」と高笑いしながら加速した。三人が走り去って行く姿を見つめながらケンは(え〜〜〜〜〜!????)と思った。誰でも思う率直な感想だ。
「な……なんなんだあの外国人……?」
と、ケンは独りごちた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ