空白の時間
□ドライヤー
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「た〜い〜く〜つ〜〜」
部屋で一人ベッドに転がり雑誌をみながら呟く。
同室のカズさんはお風呂…誰かの部屋に遊びに行くのは面倒だし…ってか勿体無いないから一人カズさんが戻って来るのを待ってる。
暫くするとガチャとドアが開く音がした。
「あぁ〜気持ち良かったぁ〜」
ガシガシとタオルで頭を拭きながらカズさんが入ってきた。
あぁそんな擦ったら髪傷んじゃう!
カズさんは全然気にしてない様子で机の上のパソコンの電源を入れた。
スタスタと冷蔵庫に近付き手慣れた様子でペットボトルを取り出して一口。
「キラも何か飲む?」
私の視線に気付いて尋ねてくれた。
「ありがとうございます。お茶とってもらっていいですか?」
「はいよ!」
カズさんは私の分のペットボトルも持って軽やかにベッドに近付いてくる。
急いで座り直す。
「ほい」
苦笑しながら私の手にポンと置いて自分のベッドに腰かけた。
パソコンの起動する音が聞こえる。
「乾かさないんですか?」
「ん?」
カズさんがキョトンとした顔をする。
今の顔、可愛いかも…なんて思いながらもう一度繰り返す。
「乾かさないんですか?…髪」
自分の髪を軽く引っ張りながら尋ねるとようやく通じたようだった。
「あぁ〜面倒だし…そのうち乾くから」
カズさんらしい返事に笑ってしまう。
「カズさんダメですよ〜髪はちゃんと乾かさないと!濡れた髪が擦れると傷んじゃうんですよ?それに匂いも吸着しちゃうらしいから臭くなっちゃいますよ〜」
「そうなんだぁ〜キラは物知りだね!ヒロにもよく怒られるんだよね〜」
自分の毛先を摘まんで見ながらカズさんがニッコリ笑った。けれど動く気配がない。
「カズさん…乾かす気あります?」
「ん〜…ないかも…」
「やっぱり…じゃあ乾かしてあげますよ!こっち座って下さい」
ドライヤーを用意してカズさんを前に座るよう促す。
嫌がるかな?と思っていたけど、あっさり座った。
もしかしたら髪を乾かしてもらうのに慣れてるのかもしれない…
胸の奥がチクリと痛んだ。
「熱かったりしたら言って下さいね」
「はーい」
無防備な後ろ姿に声をかけたら…全く警戒してない返事が返ってきた。
丁寧に髪を掬いながらドライヤーをあてる。
サラサラと乾いていく髪をみつめる。
私が好きだなんて気付いてないんだろうなぁ〜
ドライヤーの音だけが部屋に響く。
そう長くないカズさんの髪は直ぐに乾いてしまった。
「はい。おしまい!」
ポンポンと頭を撫でると愛しさが込み上げてきた。
「ありがとね」
振り向きながらお礼をいってくれるカズさんに笑顔で応える。
抱き締めたい衝動を必死で抑えて…パソコンの前に座る背中をみつめる。
カズさんにはなんてことない時間なんだろうけれど…私には大切な時間だった。