短編

□リベンジッ!
1ページ/4ページ

【リベンジッ!・1】

トレスの目の前、透明で虹色の光を放つ球体がはじけた。
 
「ナイトロード神父、何をしている」
アベルはニコニコと笑顔で、くわえていたストローを口から外す。

「しゃぼん玉遊びですよ、トレス君」
 
見渡すと複数の球がふわふわと浮かんでいて、そのどれもが早々にはじけて消えていく。
 
「あ〜ぁ、みんな消えちゃいましたね」

そう言うと再びアベルはストローをくわえ、そっと息を注ぎ込み、新しい球を作り出した。
「綺麗ですよね〜、そう思いませんか?」
 
綺麗の定義を理解できない機械は沈黙したまま、それでも新しい情報源を取り込もうとしているのか、しゃぼん玉を無表情に――アベルには不思議そうにしているように見える表情で――ただじっと見ている。

 
「何故こんな生産後即消滅する物体を作っている。卿に何かメリットがあるのか?」

その問いかけにアベルはきょとりとした顔でしばしトレスを見ていたが、改めて昼下がりのお日様みたいにニッコリと笑う。
 
「しゃぼん玉は・・・昔、カテリーナさんが大好きだったんですよ」

その先は告げず、再びその輝く球を量産し始めた。
アベルの周りもトレスの周りも、ふわふわとしゃぼん玉が取り囲んでいく。
 

「競争しましょう、トレス君」


見上げてくるトレスのガラスの瞳には、しゃぼん玉とアベルが映り込んでいる。
「私の作ったしゃぼん玉を、トレス君は割っていってください」
 
トレスは増々混乱していく。
放っておいてもすぐに壊れるというのに、更に積極的に壊せと言うのだ。


「リベンジです」


いきなり声のトーンが上がったアベルは、ビシリと指を立ててトレスを覗き込む。
「以前、カテリーナさんの作ったしゃぼん玉を割る競争をしたのですが・・・」
 
そこで口を一旦閉じたアベルから目を離し、トレスは流れていくしゃぼん玉に視線を向ける。
試しに腕を伸ばした瞬間、トレスの手を逃れる様にふいに風に乗って進行方向を変えると、そのまま音も無くはじけて消えた。
 
今度こそはその破裂音を聴覚センサーで拾おうと、別のしゃぼん玉のはじける瞬間を待つ。

が・・・

そのしゃぼん玉はアベルに壊されてしまった。

「こうやって割るんですよって、あれれ・・・トレス君、何か怒ってます?」
「否定(ネガティヴ)、俺には怒るという感情はない」

いつもの無表情でトレスは答える。
 
「だがそろそろ持ち場に戻る事を推奨する」
「あぁあーー!!そうでしたぁ。これのお片付け、お願いします〜」

慌てるアベルはトレスにしゃぼん液と幾本かのストローを預けると、熊か猪にでも追いかけられているみたいな勢いで、あっという間に消えてしまった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ