短編
□焼き芋
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【焼き芋 1】
「はい、これはトレス君の分」
アベルは上機嫌でトレスの腕に、袋に詰めたまだ熱い焼き芋を押し付ける。
「不要(ネガティヴ)。俺は食物の摂取を必要としていない」
トレスをよく知る者なら、10人が10人予測できそうなマニュアル通りの返答がトレスの口から発せられる。
「ならカテナ−ナさんでも、あっ、ロレッタさんも喜ぶかもしれませんね。なにしろ女性は焼き芋が大好きですから」
アベルが目を横に滑らせると、その視線の先にはあつあつの焼き芋に息を吹きかけつつもくもくと食しているエステル。
その状況でアベルの主張を受け入れたトレスは、そのまま焼き芋の袋を受け取った。
そこへ・・・
「じゃ、俺様も貰っていくかな」
横からにゅいっと伸びたごつい毛だらけの腕の主は
「レオンさん?やですよ、貴方の分はありませんっ」
大慌てで残りの焼き芋をかかえ、その熱さに悲鳴を上げるも絶対にレオンには渡すまいと、半べその目で強奪者を睨みつける。
「なんでぇ、そんだけあったらちぃっと位いいじゃねぇかよ」
アベルの牽制など全く意に介する事なく、大柄な神父はずずいと又一歩獲物に近づく。
「せっかく収穫したお芋さん、私はお世話になった方々に食べていただきたいんですっ!」
それでもまだ横取りするつもり満々の野獣に、更にアベルはマシンガントークで対抗する。
「エステルさんは落ち葉を集めるお手伝いをしてくださったし、ロレッタさんは火を使う許可をカテリーナさんから貰う為に取り成してくださったし、トレス君は許可を貰う為の水の用意と落ち葉への点火のお手伝いをしてくれたし・・・レオンさんはまだな〜んにもしてくれちゃいないじゃありませんか」
あまりの興奮に泡立った唾を飛ばしつつ熱弁をふるうアベルだが、レオンにダメージは全く見られない。
「それはだなぁ、これからするんだ。その残った芋の片付けを手伝ってやるからさ」
「そんなお手伝いなんかいりませんっ!もぅ、レオンさんにあげる位なら、そこらの人に配っちゃった方がマシですっ!」
さすがに熱さで両腕がジンジンしてきたアベルは、避けた場所に丁度いたトレスに残りの焼き芋を”レオンさんに渡しちゃ駄目ですよ”と押し付ける。
熱さなど感じず、又この程度の熱量で害など受ける事のない機械化歩兵は、黙ってそのまま受け取った。