コラボ小説
□迷探偵を起こさないで 10
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穏やかな風貌からは想像も付かない程、色部が内面に複雑な感情を隠しているのは、見ているだけで分かった。
誰もが声をかけられずにいる中、最初に声を上げたのは当の本人だった。
「お見苦しいところをお見せしまして、まことにすいません。あやつは、わたしの弟の忘れ形見でして…。手塩にかけて育ててやった恩も忘れて、怪盗なんかに…」
「いやいや。親の心の深さを、子どもはなかなか理解なんぞできないもんです。心中、お察しいたしますよ」
珍しくイイ事を言った中川に、直江はこの人も人の子だったんだと感心していた。
「あやつは今、国際指名手配を受けているので、きっとそのうち掴まるはずです。今は、こちらの事件の方が重要です」
そう言って話を切り換える色部の目は、もういつもの冷静な刑事の目に戻っていた。
「第一発見者は…。直江さん、あなたですね」
「はい。銃声がして、あいつと一緒にこの部屋を出ると、里見はすでに頭から血を流して息絶えていました」
「すでに絶命していたのですね?」
「はい、確かに。確認しましたから」
「里見さんとは、面識がおありのようで」
「里見は大学の同期で…。昔はよくこの研究所に出入りしていたんです。最近は、ほとんど会う事もありませんでしたが」
そこまで話してから、直江はフッと悲しそうな目になって視線を落とした。
「何で里見は研究所の資料なんか…」
直江の旧友・里見が懐に隠し持っていたのは、近々、中川研究所が学会に発表予定だった研究結果。
その1枚のディスクには途方もなく重要なデータが保存されていて、里見が持っているはずのないものだった。
「しかし、なぜかディスクは無事。盗み出そうとした彼だけが殺されてしまった」
そう。どういうわけか盗みに入った里見は、何者かに頭を銃で打ち抜かれ、ほぼ即死状態で発見されたのだった。
その懐に、ディスクを隠し持ったまま。
「わしらはその時間、ちょうど酒盛りをしていたところじゃ。アリバイは…、そうじゃな、酒を運んできた小源太にでも聞いてもらえればいいわい」
町外れにある酒屋の店員・小源太の証言を取るべく、部下の1人がその場を離れる。
「それで。直江さんはあやつと銃声が聞こえるまで一緒にいたんでしたな。あやつは一体、何をしていたのですか?」
多分。
それこそが最も色部の聞きたかった事だろう。
犯罪者に成り下がったとはいえ、自分の甥っ子。
人を殺していないと言う彼の証言を信じたいのだろう。
「それが…。彼も盗みに入ったと言うのか…」
「なんじゃと。何を盗みに入ったというのか?」
中川が直江に詰め寄る。
「それが……」
非常に言いにくい様子の直江に、色部は大きく頷いて見せた。
「あやつは人一倍美意識が高いが、どうでもいいようなものにも、途方もない価値を見出だす酔狂なところもあってですな」
つまりは、ガラクタでさえも自分が美しいと思えばどんな物でも盗み出してしまう。
色部はそう言いたかったのだが。
「景虎様は真に美しい方です! どうでもいいなんて、そんな侮辱!!!」
「景虎様?」
色部の瞳が、きらりと光った。
「どうやら、この研究所にはもう1人、我々の知らない人物がいるようですな」
ファイル10・終
次、再び高耶さん登場です☆