コラボ小説

□迷探偵を起こさないで 9
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「俺はあの子に興味がある。あんな瞳の持ち主、初めて見たね。不敵で恐いもの知らずで、輝くばかりの闇色の瞳。まるで、あの子の空想が空けているみたいじゃないか。あの瞳が、俺を映すんだ! ぞくぞくするね。どんなに綺麗な宝石を盗み出した時だって、こんなに気持ちが高揚した事なんてないよ」


C723号が語る口調は、熱を帯び、その表情は生き生きと輝いていた。
直江は、そんなC723号を見ているのがどうしようもなく不快だった。


「でも。あの子が上杉景虎と名乗る以外、何も分かってないんだな。優秀な科学者さんは一体、何をしているのやら?」


「それは、彼が!」


それ以上は続けられなくて、直江はグッと言葉を飲み込んだ。
少年が記憶を失い、別の人格を作り出している事は、目の前の危険な男には断じて教えてはいけない。そう考えたからだったが…。


「上杉景虎だって? ハンッ。俺は別にあの子が記憶喪失だとか多重人格だとか、どうでもいいんだ。大事なのは、あの瞳だ。あんな瞳をした人間がいるって事だけだ」


しかし。


すでに少年の事を知ってしまっていたらしいC723号は、そんな事はどうでもいいと言ってのけた。


「あの子がクレイジーだろうがどうだっていい。あの子は俺の相棒に相応しい」


「あの人を犯罪者にするつもりか?! そんな事、許さないぞ」


「そんなのお前が決める事じゃないだろう? あの子ならきっと、うんと言ってくれるさ」


自信に満ち溢れた男に、直江は恨めしげな視線をぶつける。
確かに。目の前の男は華やかな美青年で、男としての魅力も充分に兼ね備えている。
危険な香りも、その魅力を大いに引き立てていて、普通の女ならイチコロだろう。
………自分にはない魅力一杯の男に、直江は歯がみするしかない。




俺が勝てるものと言えば……。




「あの人への愛なら、誰にも負けない!!!」




あの人が同じ男だという事を上手に忘れ過ぎだ、直江。
なんて、その場に中川や綾子がいたら間違いなくそうツッコんでいただろうが、あいにくとここは深夜の研究所。2人以外は誰もいない。




はずだったが……。






「直江……?」






「「!!」」







かちゃり、と控え目な音と共に、廊下の電気が部屋の中に漏れ入る。
逆光の中に立つ華奢な人影に、2人の男が同時に息を飲む。







そして、同時に聞こえたのは一発の銃声。




ズキューン!




「!」




最初に反応したのは、やはりC723号だった。


「あっ、おい!」


直江が止めるよりも早く、部屋から飛び出したC723号は、銃声の聞こえた部屋を目指した。


「!」






そして。


「おい、何があったんだ?」


慌てて後を追いかけてきた直江と景虎だったが。


「…これは!!」


「この男を知っているのか?」


C723号の足元には血だまり。
そして、仰向けに倒れている男の顔を見て、直江は呆然とする。


「里見!」


覚めた眼差しで事切れた男を見下ろす、C723号。
いるはずのない人物が、いるはずのない場所ですでに死んでいる事実に、言葉を失う直江。





そして。






「!!!!!」







目の前の死体を見た途端、感電したかのように身体を震わせ始めた景虎。


「景虎様?」


その黒い瞳は、恐怖に彩られていた。





ファイル9・終
景虎様に何が起こったのか?!

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