コラボ小説
□迷探偵を起こさないで 7
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そっと離れた所から面白そうに自分を見ている中川の言葉を、直江は思い出していた。
博士は言った。
『上杉景虎』はIQの高い天才児という設定で、作品中、いくつもの難事件を解決していき、大人達をあっと言わせる。
しかし、それは小説の中での事。
実際の少年は、いくら上杉景虎を名乗ってはいても普通の少年でしかない。
天才ではないのだ。
しかし、中川は言う。
天才とは、有効的に脳を使っている人間の事を言うのだと。
元々、人間の脳には無限の可能性が詰まっていて、普通の人間はほとんどその機能を眠らせたまま一生を終える。
天才と呼ばれる者達は、その眠った機能を普通の人間よりも多く使っているだけにすぎないのだと。
(確かに、理論的にはそうかもしれませんが!)
「どうしました、直江さん?」
(仕方ない!)
腹をくくって、懸賞金欲しさにやった事ですと、謝ろうとした直江だったが。
「電話したのはわたしです。直江じゃありません」
「「「!!!!」」」
3人の視線が、一か所に集まる。
ああ……!!
絶望的な気持ちで、直江は声の主を振り返った。
「わたしが電話しました」
利発そうではあるが、どう見ても未成年としか思えないその少年に、芥川はふふんっと鼻で笑った。
「君が? 冗談を言っちゃいかんよ。これは子どもの遊びなんかじゃないんだからね」
「そう。これは遊びなんかじゃありません」
「君!」
揚げ足を取っているかのような少年の口ぶりに、芥川は苦い顔になる。
「あなたが言うように、これは立派な犯罪行為です。わたしは探偵を名乗る以上、犯罪行為を見逃すつもりはありません」
そう断言する少年の口調に、回りの大人達がハッとなる。
「はっきり言います。今日ここで、わたしはC723号の手口を暴いてみせます」
「景虎様…」
直江は神々しいものを見るかのように、少年の顔を眩しそうに見つめていた。
実際、彼には後光が差しているように見えたのかもしれない。
「じゃあ、早速謎解き開始だ。直江」
「はい」
フッと、声色を変えた少年は直江を近くに呼び寄せると、赤鯨ウィークリーの人間にこう紹介した。
「彼はわたしの助手の直江です。今日はC723号になりきってもらって、事件当日の彼と同じ行動を取ってもらいます」
「君は一体…」
誰かが、そっと呟いた。
「わたしは上杉景虎。少年探偵です」
「「「!」」」
息を飲んだのは、赤鯨ウィークリーの面々。
笑いを噛み殺したのは、中川研究所の面々。
「じゃあ、はじめよう。直江」
「御意」
ファイル7・終
御意。…これを直江に言ってもらいたくて、気が付けばこんな所まで…