コラボ小説
□迷探偵を起こさないで 5
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『ここには何が映っている?』
『何って…? 眩しくてわたしには何も見えませんが??』
目を見張る直江と綾子。
少年が眩しそうに目を細める姿は、とてもじゃないが演技には見えなかったからだ。
中川は言った。
『彼は自分の事を正真正銘、上杉景虎だと思っておる。しかし、深層心理では本当は違うと分かっている。だから、その矛盾をなくすために、鏡に映った明らかに景虎とは違う容姿の自分を見せなくさせているのじゃよ』
そして。少年探偵・上杉景虎は、明治時代に生きた人間という設定だ。
多少、フィクションは混じってはいるが、その時代に携帯電話は普及していない。
しかし、現実の彼は中川が手渡した携帯電話を普通に使いこなして見せた。
それは、景虎を名乗ってはいても、身体はちゃんと現在の人間である事を示していた。
『人間の心は、本当にまだまだ謎に満ちておる分野だ。いつか、死ぬまでに解き明かして見たいもんじゃのう』
ヒッヒッヒッと笑いながら去って行った中川の背中を見送り、直江と綾子は彼ならばできるかもしれないと感じていた。
「そうですね」
「はいっ?」
物思いに耽っていた直江は、少年の上げた元気な声に反応するのが一瞬、遅れてしまった。
「くよくよしたって仕方がない。そのうち記憶は戻ると信じて待ってみます。ありがとう、直江さん」
「!」
きらきらと目を輝かせながら自分を見上げてきた黒い瞳に、直江はウッと言葉を詰まらせた。
そして、顔を背けるとなぜか鼻を押さえながら口を開いた。
「景虎様…。お願いですから、俺の事は直江と呼んで下さい。敬語だっていりません」
「えっ? だって、あなたは年上だし…」
「イエ!! そっちの方が俺が嬉しいんです」
「?? (たまにこの人はわけの分からない事を言う。いい人なんだけどなあ)まあ、直江さんがそう言うのなら…。じゃあ、わたしの事は景虎と呼んで下さい」
「!!! とんでもない! そんな事したら、調伏されてしまいますよ。イエ、わたしが景虎様とお呼びしたいんです!!」
「???(ますます意味不明) 分かりました。じゃあ、………直江?」
「はい!! 景虎様」
途端に、嬉しそうな顔になって自分を見下ろしてくる直江を見て、まるで主人に褒められたのが嬉しくて仕方のない大型犬を見ているみたいだな、と少年は思った。
いや、犬じゃなくて猫だろ?
「??」
自分の思考に?マークを浮かべながらも、これから自分が果たすべき使命を思い、少年は強い決意を胸に顔を上げた。
そうだ。わたしは誰だ? 少年探偵の上杉景虎だ。
毘沙門天と結縁して得た推理力で、事件に苦しむ人々を救うのがわたしの使命!!
「苦しむ人々がいなくならない限り、わたしは立たなければならない!」
「景虎様…?」
「わたしの手足となって働いてくれるか? 直江」
「!!! はい!」
目をキラキラと輝かせながら手を差し出してくる少年の言葉に、否と言えるはずのない直江だった。
わたしはあなたの犬なんです。景虎様!!!
ここに、2人の主従関係が生まれた。
鼻血を垂らしながら、眩しそうに自分を見つめてくる長身の男に、少年はにこりと天使の微笑みを返していた。
……………………それが悪魔の微笑みだったと気付くのに、そう時間はかからなかったが。
ファイル5・終
そろそろ、いい人を登場させなくてはダメですねぇ