コラボ小説
□迷探偵を起こさないで 4
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「やっと気が付いたのねえ〜。タンクから水揚げしたのはいいけど、一向に目が覚めないから今度は電気でも流そうかって博士と言ってたところだったのよ。ホント、良かったわ〜」
物騒な事をさらっと言ってのけた綾子に、直江は信じられないと怒りも露にする。
「この人を殺す気か!」
「やあねえ。冗談よ」
冗談じゃない事を平気でやってしまうのが、中川だ。
その事を痛い程身を持って体験してきた直江は、綾子の後ろから悠々と歩いてきた上司に恨みがましい視線を送る。
(この短期間で、こんな顔をするようになって…。面白い男じゃ)
剃刀のような男の視線を、春の日差し程度にしか感じていない中川は、さて、とベッドの上の少年に向き直った。
「はじめまして。わしは、この中川研究所の所長・中川嘉門じゃ。そして彼女が秘書の門脇綾子君。こっちが助手の直江君だ」
「ナオエ…」
直江の名前だけに反応を見せる少年に、おやっという顔をして、中川は本題に入る。
「さて。君は10日間、眠りについていたわけだが、わし達はその間、君の事を何と呼べばいいのか分からず、不便な思いをしてきた。…名前を教えてくれるかい?」
少年がゆっくりと頷き、顔を上げる。
「わたしの名は、上杉景虎。上杉家の末子で、探偵をしております」
「「「!!!!!」」」
部屋の中の空気が、いっぺんに薄くなったような気がして、直江はゆっくりと口を開いた。
「えっと、探偵さん…?」
「いかにも。少年探偵・上杉景虎とは、わたしの事です」
息を飲む、3人。
綾子は笑いを噛み殺すのに必死で、直江は少年の言っている事を理解しようとするのに全力をかけていて。
そんな中、中川は1人、興味深げに少年を観察していた。
「ほう。君があの有名な景虎君なのかね。いやはや、お目にかかれて大変、光栄じゃよ」
「「博士??」」
素頓狂な声を上げる綾子と直江を尻目に、中川は景虎に握手を求める。
「わたしの事をご存じなのでしたら、話は早い。一体、ここはどこなのですか? 私は、自宅で父上達と舞いを楽しんでいたはずなのに…」
握手を交わしながら、自分の置かれている状況を分析しようとする少年に、中川はさらりと言ってのけた。
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