コラボ小説
□迷探偵を起こさないで 3
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洗濯物を取り入れに行ったはずの直江が、意識のないズブ濡れの少年を抱き抱えて帰ってきたのには、さすがの中川も驚きを隠せなかった。
「直江君。こりゃあ、一体…」
「博士。彼を助けてください!」
「やだ、この子の腕!」
だらり、というよりはぶらりと繋がっているだけの右腕を見て綾子が悲痛な声を上げる。
一角の猶予もない事はすぐに見てとれた。
「直江君。彼をすぐに手術台の上へ。綾子君、オペの準備を」
「はい、博士」
力強く頷く綾子。
直江は腕の中の少年を、まるで壊れ物を扱うかのようにそっと手術台に横たわらせた。
その瞳は、自分が傷を負ったかのように痛々しく歪んでいた。
「何をしとる。直江君も早く準備を」
「はい…」
まるで、片時も離れたくはないと言うかのよう、未練がましく少年を見つめ続けていた直江だったが、意を決して自分の白衣を纏うべく立ち上がった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「あら、直江。それって…」
研究室の一角。
いつものように薬品の入ったタンクの前でそれを眺めていた直江に、綾子は声をかけた。
直江が手にしているものに、見覚えがあったからだった。
「ああ。彼が手にしていた携帯電話だ」
真っ白い二つ折れのそれは、水没して使い物にはならなかったが、かろうじて待ち受け画面だけはそのまま残っていた。
直江はさっきからそれをずっと眺めていたのだった。
少年に手術を施してから、はや1週間。
彼の持ち物と言えば、この携帯電話1つ。
もとはと言えば、これを握り締めていたお陰で、直江に気付かれて九死に一生を得た。
言わばこの携帯電話は、直江と少年を繋げた運命の糸とも言えた。
あれから毎日、この部屋で少年の携帯電話を眺めるのは直江の日課となっていた。
「せめて携帯が使えれば、名前と住所くらいは分かったでしょうにね」
「たとえ彼の住所か分かったとはいえ、この状況を何と説明するのかね?」
「「博士」」
後ろから足音もなくやってきた中川は、フッとおもしろいものを見るかのように直江に目を向けた。
(これは、なかなかおもしろいデータがとれそうじゃ)
「でも。きっと彼の家族は必死になって捜してるんじゃありません?」
「しかし。たとえ連絡がついたとて、今の状況では会わせられんだろう?」
「あら。正直におっしゃったらいいじゃありませんか。あなたの息子さんは、切れた右腕と左足を繋ぎ合わせるため、薬品の入ったタンクに浸かっていて、今は会う事ができませんって」
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