コラボ小説

□迷探偵を起こさないで 1
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仰木 高耶は、今年の春にハイスクールに入ったばかりの15歳だ。
家族は、父親の氏照と猫のナオエ。
と言っても、氏照とは血の繋がりはない。
両親が交通事故で帰らぬ人になった時、親戚一同にも見放されて施設送りにされるところを、父親の親友だったという氏照に拾われたのが5歳の時。
氏照は、世界屈指のホテルチェーン・北条グループの次男坊だったが、グループの仕事は他の兄弟達に任せ、一人、気楽な物書き家業をして生計を立てていた。
かなり変わった男ではあったが、高耶に対する愛情は人一倍、いや三倍はあった。
お陰で、40歳に近い今でも、まだ独身であった。
そして、猫のナオエは公園で捨てられていたのを高耶が自分を見ているようで放っておけなくて拾ってきたのだった。




ナオエと氏照がたまに自分を取り合ってケンカするくらいで、高耶の日常は平和そのものだった。




しかし、高耶には秘密がある。




「今日は珍しく寝坊しなかったんだな、高耶」




丸いドングリ目を意地悪く変え、譲が笑う。
譲は高耶がハイスクールに入って最初に仲良くなった友達で、まだまだ短い期間ではあったが、親友と呼べる程に打ち解けた存在だった。
育ちの良さそうな顔立ちは高耶とは違うもので、実際にかなりおおらかな性格でマイペースだ。
しかし、気が弱いのかと言えば決してそうではなく、自分が正しいと思う事は何があっても貫き通そうとする、強い信念をもっている、見かけどおりではない少年だ。
高耶も高耶で、譲とはタイプの違う野性的な顔立ちはしていたが、凛とした瞳と真っ直ぐに伸びた背筋が、その成長を楽しみなものにさせていた。




とはいえ、二人は15歳。
大人になりかけてはいるが、まだまだ体格も中身もお子様なままだった。
しかも、高耶はと言えば…………




「何だよ、譲。俺だってたまには寝坊しない日もあるんだぜ?」


「へえ〜。じゃあ、昨晩は見なかったんだ、アレ」


意味深な目で問いかけてくる譲に、高耶は一瞬、ウッと言葉に詰まる。
が、嘘の付けない性格なので、バツが悪そうに首を横に振る。


「ちょっとだけ、読んだ…」


「はあ〜。やっぱり高耶に彼女ができるのはきっとまだまだ先だな!」


「そ、そんな事言うなよ!」


「だって、いくらカワイイ子に告白されたって、高耶が興味あるのは『景虎様』だけだもんなあ〜」


「ゆ〜ず〜る〜」


憎らしそうな親友の眼差しを受け、譲はフフッと笑う。
この、一見、突っ張っていそうな親友は、自分とは逆の意味で外見を裏切っている。
過去に、相当なつらい目に遭っているのにも拘わらず、人を疑う事を知らず、純粋なところがある。
しかも、空想するのが大好きで、今一番彼の心を捕らえているのは…………


「『名探偵・上杉景虎』だったっけ? 確か、ウチの父さんの書斎に1冊だけ入ってて僕も読んだけど、あんまりおもしろくなかったけどなあ」


「そんな事はない!」


思わず拳を握り締めて、高耶が否定する。


「その続きの『夜叉衆・登場』や、『愛しのアマデウス』『5月3日は狂犬記念日』とか、『やかんと眠る日』に『時空縫合2008』を読めば、きっとお前も納得するって。どれだけ景虎がすごい人なのかって事が!!!」

「………………最後のだけ、読んでみたい気もするけど。所詮は空想の中だけの話だろ? 何でそんなにアツくなれるんだよ??」


「景虎は最高のオトコだ!」




高耶の瞳が、人一倍輝くのはこの瞬間だ。





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