蜃気楼小説

□やってみようシリーズ@
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キャァァー!!!!!


沸き起こるのは、先程よりもさらに甲高い歓声。


「あっ。やったか」


「ああ。また、やっちまった」


無口で無愛想な仰木青年。
そつなく仕事をこなす彼だが、どういうわけか橘が側に来ると、ありえないような失敗を数々引き起こすのだった。
何もない所でつまづくのは、まだ序の口。
開いていないドアにぶち当たったり、洗車の途中で話しかけられ、大事な荷物にホースの水をかけてしまったり、挙句の果てに荷物を積んでもいないのに、出発しようとしたり。
最初は「カッコイイ人がいる」と見物に来ていた女性達だったが、そんな彼のお茶目(?)な失敗の数々を目の当たりにして、「カワイイ」と言ってしまうのも仕方がなかった。
しかも、決まって橘と2コセットになっている時、限定ときたもんだ。


「大丈夫ですか?」


「………」


胸の中に飛び込んできた身体を、よろめく事なくガッチリと抱きとめた橘は、仰木青年の耳元でそっと囁いた。




「あなたはわたしを試すような事ばかりする。……あおっているのですか?」



「!」




最後のセリフだけ、声のトーンを落とした橘。
瞬間、腕の中の青年がパッと飛び退いた。


「……高耶さん」


「っ!」


無愛想なはずの仰木青年の顔は、真っ赤っ赤。


「可愛い人だ」


「!!」


(カワイイって言うな!)


ギロリと目の前のイイ男を睨み付ける仰木青年の目元に、うっすらと滲む涙。









『あなたに一目惚れしたんです。どうか、わたしの恋人になってくれませんか?』


トラックの運転手になって2日。
見た事もないような長身の色男は、いたって真面目な顔で自分に愛の告白をしてきた。


あなたを追いかけて、ここに就職したんです。…なんて、とんでもない爆弾まで落として。
こんな目付きの悪い、無愛想な男のどこがいいのか?
生まれてこの方、女に告白された事や、ましてやお付き合いすらした事のない自分を、あろう事かこいつは『カワイイ』とほざきやがった。


(ありえねーっつうの)


それから毎日。
手を変え品を変え、男は自分を口説き続けている。


(何より、一番ありえねのは俺自身だ…)


橘が側に来ると、信じられないミスばかり犯す自分が、何より許せなかった。
これでは、男を意識していると丸分かりだ。


「今夜、7時」


「っ!」


「駅前であなたが来るのを待ってます」


「行かねえぞ!」


咄嗟に言葉を発してしまった仰木青年は、しまったと慌てて口をつぐむ。


「やっと口をきいてくれましたね。…好きですよ、高耶さん」


「っ!!!」


言いたい事は言ったと、踵を返す男に、仰木青年は何も言い返せない。






「あ〜あ〜。首まで真っ赤になってら」


「可愛いねえ」


「ああ。カワイイねえ」


「今夜あたり、どう思う?」


「そうだな。今夜、かな?」


男達はその先を口にする事なく不遜に笑うのみであったが、女性陣は違った。


「やっぱり、2人は一緒にいなくちゃダメよねえ」


「そんなの当たり前!!」


「それよりも…」


「ええ。とうとう…」


「とうとう…」


「橘さんの目を見たでしょう? あれはマジな目だったわ!」



ゴクリ…



女性陣一同、唾を飲み込む。





「「「仰木さんは今夜、確実に美味しくいただかれるわ!!!!」」」





多分、終わり。


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