蜃気楼小説

□ある雪の日に
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「いい加減にしろ、このエロ犬! 変態!!」


「変態?! それは言い過ぎじゃないですか〜」


「変態そのものじゃねえか。ったく、仕事のやり過ぎでおかしくなっちまったんじゃねえだろうな」


そう言って、フッと眼差しを和らげた高耶は、しょんぼりとうなだれるガタイのイイ男にほらよ、と何かを差し出した。


「高耶さん?」


「……お疲れさん。ほら、これでも飲んであったまれよ」


そう言って高耶が差し出したのは、男専用の黒いマグカップ。
中に注がれているのは琥珀色の液体。


「…まあ、お前のせいですっかり冷めちまったからあったまれないだろうけどさ…」




根詰めて仕事し過ぎて、あんまり俺を心配させんなよ…?




そう男の耳元で囁き、じゃな、と背中を向けて部屋を出ていく高耶に、男は感極まって瞳を潤ませた。


「高耶さん! 何て可愛い人なんだ。あなたを1人にさせてしまう仕事なんかとっとと片付けて、すぐに側に向かいますからね! 早くあなたを暖めてあげる!!」


そのまま猛烈な勢いでパソコンのキーボードを叩き出す音がドアの向こうから聞こえ出し、高耶は人知れずため息を付いた。




愛され過ぎるのも、楽じゃない。





しかし、男―直江は知らない。
ため息を吐いた高耶の耳が、ほんのにと赤くなっていた事を。
そして、本格的に降り出した雪が、世界を銀色に染め始めた事を。


Fin.

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