星矢DEドリーム

□花の咲く午後11
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その声がムウのものだと認識した途端、南の脳裏にドッと記憶が押し寄せてくる。

「沙織ちゃんは無事?!」

まず先に、そう叫んでいた。


男からの一撃を肩にくらった南は、痛みに朦朧としながら、沙織を庇うように立つ黒髪の少年の姿を認めていた。
沙織と同じくらいの少年。
両手を伸ばし、身体全部で沙織を守ろうとするその姿は、小柄ながらも立派な男のもので。

『南ー!!!!』

その後すぐに、人の群れの向こうから駆けてくるミロの必死の形相が見え、続いて、初めて見る慌てた様子のサガに、ムウ。

そう言えば…

「シュラがいた…」

彼らの後ろからさらに走ってきた男の名を呟き、南はポツリと漏らした。

「知り合いだったんだ…」

「シュラは、わたし達の仲間です」

「世間は狭いな。イケメンの知り合いはやっぱりイケメンか」

「?」

意味が分からないと、その表情で語るムウに、分からなくていいから、と目で諭す南。

「沙織ちゃんは、無事なんだよね?」

もう一度、同じ質問を繰り返す。

「ええ。アテ…沙織様は無事です」

頷いて見せるムウに、南は安堵のため息をついた。

「良かった」

にこり、と笑ってみせる南だったが。

「そう言えば、あの男の子は……?」

ふと疑問に思ったのは、見覚えのない少年の後ろ姿。
どこに隠れていたのかと、聞きたくなるくらいに押し寄せてきた城戸邸の住人達。
でも、あの少年は見た事がなかった。

「ああ…。星矢ですね。彼もまた、沙織様のボディガードです」

「えっ? あんなに若いのに?」

明らかに沙織と同世代に見えた勝ち気そうな少年の姿を思い浮かべ、南は驚きの声を上げる。

って言うか、今まで城戸邸で出会った全員が、沙織ちゃんのボディガードなの…?

ますます、城戸沙織という人間の正体が謎めいてくる南だったが、あえてそれは口にしない。
聞きたい事は山ほどある。
でも、何も聞かない。
向こうが話してくるまでは絶対に聞かない。
それが友達だと、南は思っていた。

「あっ。もしかして前に言ってた『武道バカ』ってもしかして、シュラの事?」

「ええ、そうです。もしかしてもう、南のご実家に…………?」

「うん。来た」

「そう、ですか……」

他愛のない話を降る南に対し、ムウの声色は段々と沈んできていた。



「あの、ね…ムウ」

「…………はい?」

「そんな顔しないでよ。わたし、別に大怪我したわけじゃないんだし。何より、沙織ちゃんに怪我がなくって本当に良かった」

明るい口調でそう告げる南だったが……………。

「……………」

ムウは黙り込んでしまった。

あまり喜怒哀楽を表に出さない、常に冷静沈着な青年だと思っていただけに、南はただただ驚いていた。

こんな顔もするんだ。…………こうして見ると、やっばり年下だ。
なんか、可愛いかも…

なんて、暢気に考えていた南だったから、ムウがぼそりと呟いた一言を聞き逃してしまっていた。





「……で……っかた…」

「えっ?」

気付けば、俯いてしまっているムウ。
その表情は、暗闇に隠れていて見えない。

「今、何て……?」

「……………あなたに怪我がなくて、本当に良かった」

「!!!!」

なんて、なんて顔してるのよ?!?!

顔を上げたムウと目が合った南は、そのあまりにも熱い眼差しに、赤面せずにはいられなかった。
その顔には、いつもの少女のような儚さはどこにもなかった。
南をじっと見つめてくるその顔は、「男」そのもので………。

「「……………」」

見つめ合っていたのは、数秒の事だったのか、数分の事だったのか。

先に目を反らしたのは、ムウの方だった。

「………女性の部屋に長くいていい時間ではないですね」

「あ、えっ…」

今が一体何時なのかは分からなかったか、ムウに言われて初めて、時間を気にし始めた南だったが。

「沙織様を助けていただいて、本当にありがとうございます。あの方は、わたし達の光。全て。決して失われてはいけない存在なのです」

深々と頭を下げるムウ。
沙織の事を特別視しているのはその態度から察していたが、やはり言葉にされると驚かずにはいられなかった。

「…ム…ウ」

南が何か言葉を発するよりも早く、ムウはするりと立ち上がった。

「それでは、失礼します…」




暗闇に溶けるように、ムウは南の目の前から消えていった―――――――

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