星矢DEドリーム
□花の咲く午後5
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「南〜。休憩に行こっか」
老人の食後の歯磨き介助をしていた南は、腕の時計にちらりと目をやって顔を上げた。
現場に出ると、時間はアッという間に過ぎていく。
気が付けばもう昼休憩、なんてのは日常茶飯事だ。
「了解。六道、休憩に入ります〜」
一番端っこの部屋にいる職員に届くように大声を上げ、南は詰所で手を洗う。
手洗い・うがいは基本中の基本。
「ねえねえ。あんたさあ、この間の亜矢の結婚式でいい出会いはなかったの?」
「またか…」
「何よ、またかって」
「これで4人目。亜矢の結婚式でイイ出会いはなかったのかって、みんなそればっかり」
「みんな気になってるのよ〜。だって、あんたには幸せになってもらいたいんだもん」
「先輩…」
嬉しい事を言ってくれる。
南は不覚にもウルッときそうになったが。
「亜矢の結婚式から2週間以内に彼氏が出来るかどうかで、みんなでカケてるの」
「……そんな事だろうと思ってたけど」
やっぱりか。所詮そんなもんよね、ここの奴らって…。あ〜、泣かなくて良かった。涙が勿体ない。
休憩室に入り、持ってきたお弁当を広げる。
詰所の裏にある休憩室は、職員の更衣室も兼ねていて、個人のロッカーも置かれている。
南は、カバンの中から携帯電話を取り出し、テーブルの上に置いた。
「おおっ。彼氏ですか?」
「先輩のお弁当、美味しそうですね。唐揚げ、奪いますよ」
「嫌っ! それは勘弁! ゴメン、南ちゃん。わたしが悪かった!」
一家の主婦である先輩・真由のお弁当は、独身者の南のものに比べると、手の懲りようが全然違う。
朝は1分、1秒でも眠りに時間を使いたい南のお弁当は、イマドキ珍しいくらいにシンプル・イズ・ザ・ベスト。
昭和初期の子どもの弁当とも、職員間では噂されている。
ちなみに、今日は一面の白ご飯の上に梅干し1つと、海苔2枚。
「あんたが食事の時に携帯出してくるのって、珍しいわね」
「ん。ちょっとね…」
普段、携帯電話なのにそれをほとんど携帯しない南だったが、今回ばかりはちょっと事情が違うのだった。
あっ。メールきてる。
ぽちっとボタンを押して、受信メールボックスを開く。
『○月△日。晴れです。今日は、あふろでぃーてに手入れしてもらった薔薇がサキマシタ。お昼ご飯は、キキが無宇と一緒に作ってくれるじゃみいるの料理です。夕方、おミエになられるのを心待ちにしています。追伸。ミロは使いに出していますので、安心シテ下さい』
…13歳なんて言ったら、目をつぶっててもメールが打てるような年齢よね?
「先輩の娘さんって、いくつだっけ?」
「えっ? 今、小学6年生だけど」
「携帯持ってるの?」
「だいぶごねられてね〜。若い子はなんであんなに機械類を使いこなすのが上手なのかしらね」
13歳も充分、若いはずなのに、一体この文面は何なのか…。
やはり、この「トモダチ」はなかなか手強い…。
内心、はあっと息を吐く南。
携帯電話の機能を100%使いこなしている人間なんて、この世に存在しているのだろうか…(Keyの心の呟き)