コラボ小説

□迷探偵を起こさないで 11
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「彼は死体を見たショックでまだ意識のない状態なんです!」


少年が寝かされている部屋の前までやって来た色部の前に、直江は立ちはだかった。






「それだけじゃない。記憶の方も…」


「何やら、複雑な事情がありそうですな。その『景虎様』とやらには…」


真実を追求する厳しい目になって、色部は直江の長身を押しのけてドアノブに手をかけた。


「待って下さい! 彼はまだ!!」


カチャリ


直江の奮闘空しく、ドアは開かれ、ベッドに寝かされた美しい人の姿が露にされる…………はずだったのだが。








「……君が、景虎君かい?」








振り返った直江は、目を見張る。
そこには、意識を失って横たわっている、美しい自分だけの獣がいるはずだった。



しかし。



「俺……? 俺は高耶。仰木高耶だ」



頼りなく瞳を揺らす黒髪の少年が、ベッドの上に身体を起こしていた。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






「彼が記憶を取り戻したじゃと?」


その知らせを受けて、中川と綾子が直江の元に駆け付けてきた。


「直江!」


部屋の中に飛び込んできた中川と綾子が目にしたのは、不安を隠し切れず、ギュッと堪えるように唇を噛み締める少年の姿だった。


「これは一体、どういう事なのですか??」


「色部さん。詳しい事情はこちらの方でお話させていただきます」


そう言って、有無を言わせず綾子がにっこりと笑顔を見せて、1人、混乱を見せる色部を部屋の外に出す。


「さて。はじめましてになるのかな?」


「………?」


事情が全く掴めない少年に向かって、中川は落ち着いた口調で口を開いた。
パッと見、彼は優しそうなただのじいさんだ。
自然と、少年の眼差しも緩む。


「君は怪我を負って川で流されておったんじゃ。それを助けてこの研究所に連れて来たのがわしの助手の直江君だ」


「ナオエ…?」


少年が僅かに目を見張るのを、直江は確かに見た。


「わしは、この中川研究所の所長・中川嘉門。これは、直江信綱。君の名を…、本当の名を教えてはくれんかの?」


半ば、祈るような気持ちで直江は少年の顔をじっと見つめ続けた。




「高耶…です。仰木、高耶」




「高耶さん…。綺麗な名前だ。美しいあなたにピッタリですね」


「???」


「彼の事は気にしないでくれ。君に不利になる事は100%ないから」






それより…、中川の質問が住んでいる場所に及んだ時、高耶はハッとなって顔を上げた。


「俺の他に、流されている人間がいませんでしたか? いるはずなんです! 俺と一緒に川に落ちた人間が、少なくとも2人!!」


「落ち着きたまえ。川で流されておったのは君1人じゃ。なあに、名前と住所が分かったんじゃ。すぐにご家族と連絡を取れば、全て分かるはずじゃ」




そう言って、高耶から聞いた連絡先を割り出すために中川は部屋を出て言った。

残されたのは、高耶と直江の2人。


「あの…、ナオエさん。本当にありがとうございました。危ないところを助けていただいて…」


ペコリと頭を下げるその仕草に年相応の幼さが見え、思わず直江は顔を綻ばせていた。
傲慢で気位の高い景虎様も素敵だが…高耶さん、何て可愛らしい人なんだ!!!
少年らしい、潔癖そうなその表情。
何より、景虎の人格がなりを潜めても決して失われない瞳の強さ。
きっと、芯の強い性根の真っ直ぐな少年なんだろう。それでいて、意地っ張りで強がってばかりで…でも寂しがり屋で(延々と続くので、カット)


「俺の事は、直江と呼んで下さい」


「えっ。でも…」


「景虎様は…あっ、いえ。親しい人間にはそう呼ばれているので、高耶さんにもぜひ同じように呼んでもらいたいんです」


熱く、懇願するように言う直江の瞳に戸惑いながらも、高耶は遠慮がちに頷いた。


「分かりました。直江って呼ばせてもらいます」


「敬語もいりませんからね」


「えっ、それは」


それはさすがにマズイと反論しようとした高耶だったが、直江の有無を言わせない眼差しの前に、しぶしぶ頷くしかなかった。





「直江…」





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