コラボ小説

□迷探偵を起こさないで 10
1ページ/2ページ



「景虎様!」


少年の身体が後ろに倒れるのと、2人の男がその背中に腕を伸ばすのはほぼ同時だった。


「しっかり。景虎様っ!」


「……ナ…オ……、エ」


少年は小さく呟くと、そのまま意識を飛ばしてしまった。


直江はその小さな身体をひしっと抱き締めた。
もちろん、邪魔なC723号の腕を払いのけて。


「急にどうしたんだ?」


少年の突然の反応に、驚きを隠せないC723号だったが。


「当たり前だろう! 死体を前にして平気でいられるはずがないだろうが。この子はまだ子どもだ」


「そりゃそうか」


直江は少年の身体を抱き上げると、そのまま部屋の外へと出た。


「おい。こいつをどうするつもりだ。お前の知り合いなんじゃないのか?」


「警察に通報しといてくれ。すぐに戻ってくる」


すでに命の灯が消えている事は確認済みだった。
今は、何よりも腕の中にいる相手の方が大事な直江だ。


「おいおい。(怪盗)の俺が、(よりによって)警察に電話だあ???」


「事件を通報するのは、怪盗であれなんであれ、国民の当然の義務だ」


「だからってなあ〜」


「嫌なら、偽名でも使って通報しておけ」


そう言って、これ以上聞く耳はもたないと、C723号に背を向けて直江は立ち去って行った。









そして。
程なくして研究所に集まった人物は総勢、7人。


「信じられん。まさか彼程の男がどうして」


驚きを隠そうとしない中川に、上司のそんな顔を何年かぶりかに見て驚いている綾子。
直江はただただ、旧友の暴挙を信じられずにいて。





そして。





「どうしてお前がここにいるのか。説明してもらおうか、千秋」


恰幅のいい白髪交じりの眼光鋭い中年刑事が、人の輪から1人離れて立つグリーンアイの男を問い詰める。


「千秋…?」


その中年刑事の部下らしき若い男が、訝しげに眉を潜める。


「警部。彼と面識があるのですか?」


「お前……。ICPO(インターポール)の資料に何も目を通していないのか?」


慌てて、もう1人の部下が年若い刑事の言葉を遮るように間に立ちはだかった。


「えっ?」


「このひよっこが!!」


人目も憚らず後輩を叱り飛ばす部下に、中年の男がそっと声を上げた。


「やめないか。皆さんが驚いているだろう?」


「はっ。失礼いたしました、色部警部!」


色部と呼ばれた男は、怜悧な瞳の奥に感情を押し殺して、再びグリーンアイの男に向き直った。





「ここで何をしていた。千秋…いや、C723号」





「「「!!!」」」





皆が一斉に振り返る。


「えっ。ちょ、ちょっと待ってください。彼は通報人ですよ? 第一、C723号とは顔立ちが…」


「こいつは変装の名人だ。数秒で全くの他人に成り済ます事なんて朝飯前だ。そうだろう…?」


「……警部に昇進したんだな、色部のとっつぁん」


C723号は、ふっと瞳を和らげると、親しみを込めて色部の事をそう呼んだ。
緊張感が部屋の中を走る。
しかし、その緊張感をむしろ好むのがC723号という男だ。


「言っておくが、俺は殺しはやらねぇ。俺は怪盗だ。美しいものにしか興味がないからな。………………それに」


「それに……?」


「死体は綺麗じゃないだろう?」


「お前!!」


そう言うが早いか、C723号は色部の前からひらりと逃げ出すと、瞬く間にその場から逃亡した。




「千秋!」




「叔父貴、またな!」




「「「ええええぇ〜?!」」」




最後に爆弾発言を残し、風よりも早くC723号の姿は消え去った。




次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ