コラボ小説
□迷探偵を起こさないで 3
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スタジアムを出ると、途端に降り出したのは大粒の雨だった。
「うっそだろ、最悪〜! 天気予報じゃ晴れって言ってたのに」
「けどまあ、良かったじゃん。試合の間は晴れてたんだからさ」
「そうだけどさあ…」
スーパーマーケットで夕飯の買い物をして帰ろうと考えていた高耶は、渋い顔を崩さない。
その事を知っていた譲は、こう提案した。
「じゃあ、こうしよう。父さんに迎えに来てもらうからさ、車で店まで行こうよ。そしたら、たくさん買い物しても大丈夫だろ?」
「えっ、いいのか?」
ぱあっと途端に顔を輝かす高耶。
思った事がすぐ顔に出るのが高耶の長所でもあり短所だ。
その素直さを、憎む人間は誰もいなかったが。
「うん。どうせ雨だし。患者さんもこんな日は来ないんだ」
譲の父親は歯科医だ。
自宅で開業していて、夫婦2人で細々とやっている、町に一軒しかない歯科医院だ。
程なくして、譲からの連絡を受けて、スタジアムの前で待つ2人の前に黒い車が横付けされる。
「父さん」
「やあやあ、高耶君。久しぶりだねぇ」
そう言ってニコニコ顔で運転席の窓を開けるのは、いつも笑顔の成田歯科医院の院長だ。
「父さん、早く中に入れてくれよ」
「おう、そうだったな。久しぶりに高耶君の顔を見られて、嬉しさのあまり、ついな…。さあ、乗って」
促されるまま、高耶は後部座席に乗り込む。
なぜか高耶は年上の男にやたらとモテる。
譲の父親ももちろん例外ではなく。
「高耶の家に行く前に、スーパーマーケットに寄ってくれる?」
「お安い御用だ。夕飯の買い物かい、高耶君」
「あっ、はい。オヤジが今日やっと締切りが開けたんで、何かウマイもんでも喰わしてやろうかと思って」
「うっ。何て優しい息子なんだ。涙が出るねぇ。氏照さんは、本当に幸せ者だ。こんなイイ息子さんをもって」
スタジアムの側の川沿いを車は走る。
雨は段々と殴り付けるような激しさに変わっていた。
「父さん。この道で本当に合ってるの?」
「この道は、地元の人間でさえもあんまり通らない抜け道なんだ。サッカーの試合が終わって、普段の道は渋滞してるだろ? こっちを通った方が早く帰れるんだよ。おまけに、ほら。そこを左に曲がればマーケットの裏に!」
その時。
「うわっ!」
ガタンッと大きく車体が傾いたかと思うと、道を外れた車は真っ直ぐに川めがけて突っ込んでいった!
「わあああああぁー!!!!」
叫んだのは、譲だったか。高耶だったか。
ありえない衝撃が車の中の3人を襲い、途端に視界は暗闇に閉ざされる。
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