コラボ小説
□迷探偵を起こさないで 1
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☆おはなしのはじまり☆
それは、一人の平凡な少年の身に起こった万に一つの奇跡。
そして、運命の出会い。
でも、人よりちょっとだけ空想が好きで不器用な優しさを持ち合わせている人間ならば、もしかしたらこんな奇跡が起こるのかもしれない。
なんて、そんなお話。
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「オヤジ。おい、オヤジ」
愛息の声に、父親の氏照はう〜んと大きく伸びをしてベッドから起き上がった。
「なんだよ〜、まだ寝てたのか? 俺、今からちょっと出かけてくるからな」
息子のその一言に、氏照の頭が寝起きモードから一気に抜け出す。
「何! せっかくのオフなのに、父親を置いてどこに行くんだ? やっと地獄の締め切りから脱出したって言うのに、わたしにお前を独占させてはもらえないのか?」
「だー!! 恥ずかしい事言うなよ! 俺、もう15歳だぜ? オヤジの小説の主人公だけにしてくれよ、そんなクサいセリフ言うのは」
「クサいだと? わたしはいつも思っている事しか口になどしないぞ」
「ハイハイ。じゃ、俺もう行くから。ナオエの餌、冷蔵庫の側に置いとくからな」
「高耶〜。わたしを捨てて一体、どこに行くんだ???」
「昨日、言っただろ? 譲とサッカーの試合、見に行くんだ。夕飯までには帰るからさ。締め切り明けに、思いっ切り美味いもん喰わしてやるよ」
だから、なっ? と父親を説得してからベッドルームを抜け出した高耶。
玄関先まで行くと、ぬっと大柄な茶色の毛玉が足元に絡み付いてくる。
「今度はお前か…。いいか、ナオエ。夕方には帰ってくるんだから、ちゃんと大人しくしてるんだぞ?」
ナ〜と大きな声を上げるのは、琥珀色の毛並みのオス猫。
スッとした眼差しが涼しげで、恐らくは美猫なはずなのだが、所構わず高耶に甘えてばかりいる。
発情期になっても、他のメス猫のどんな誘いにも乗らず高耶の後ばかりを追いかけている姿から、かなり一途な性格なのだと周りは微笑ましく見ていた。
しかし。
どんなに頑張ってみても所詮は猫。
ナオエがたとえ甘えた鳴き声で行くなとアピールしてみても、高耶には親友の譲の誘いの方が大事で。
ブブー
「あっ、譲だ。じゃ、行ってくるからな」
玄関のブザーが鳴り、高耶がナオエの背中を人撫でして立ち上がる。
そのまま、ジャケットを羽織ってドアを勢いよく開く。
「行こうぜ、譲!」
春の日差しが、高耶の黒髪を照らし、その生き生きとした漆黒の瞳が期待に満ちて輝く。
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