☆矢小説

□WELCOME TO THE JUNGLE(氷河×カミュ)
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そこは、東シベリアともギリシアとも、生まれ育ったフランスの街並みとも違う、一種、独特の空気があった。
古い物も新しい物も、陰の物も陽の物も…何もかもが混沌と存在している。

「香港にも似ている気がするが、また違う」

「カミュ、こっちです」

初めて来る東京という街を感慨深く見ていたカミュは、繋がれたままの手を引っ張られて思わず苦笑いする。

「そんなに急がずとも、わたしはどこにも逃げんぞ? 氷河よ」

「だって、そんなに長い間はいてられないんでしょう?」

「いや。それが、慌てずゆっくりしてこいとの、教皇のお言葉だ」

「えっ。それじゃあ…」

「お前に会いにここまで来たんだ。満足するまでいさせてもらうぞ」

「!!」

途端に、氷河の顔にパアッと薔薇が咲いたかのような笑みが生まれる。嬉しくて仕方のない時の顔だ。

あれほど、クールに徹しろと教えたのに…。

厳しい師匠は、内心でため息をついたが、素直に感情を表す氷河を疎ましく思った事など一度もなかった。

「言っておくが、決して遊びに来たのではないぞ? お前の小宇宙がどこまで高められているか、ちゃんと見させてもらうからな」

「はい。もちろんです!!」

ここにアイザックがいればなあ…。

カミュはもう1人の弟子の事を思い、フッと空を見上げた。
アイザックは現在、かつてのカミュのように東シベリアで弟子と共に生活している。
一人前とみなし、カミュ自ら弟子をとるように進言したからだった。

本当に、子ども達は大きくなるのが早い。

自分が急に年寄りになったような、何とも言えない寂しさを感じずにはいられないカミュだったが。

「はい」

「っ!」

すぐ目の前に差し出されたそれに、カミュは「?」と眉を潜めた。

「アイス。好きでしょ?」

真っ白いソフトクリームを持つ氷河は、ニコニコとカミュの右手にそれを持たせた。

「……すまんな」

カミュは甘い物には目がない。
氷河やアイザックと暮らしていた時などは、同じようにして甘いケーキやアイスを楽しんだものだ。

「美味いな」

ぺろりと舐めて、その程よい甘さと濃厚な味加減にわずかに目を見張る。

「でしょ? ここのソフトクリームは有名なんだよ。って言っても、瞬の受け売りだけど…」

「お前は食べないのか?」

「あっ、俺はいいんです」

「遠慮するな。買ってきてやるぞ?」

氷河も自分と変わらないくらいに甘い物好きだった事を思い出す。
さっきまで子ども扱いするなと言っていた手前、食べられないのかと思い、カミュはフッと笑って鞄から財布を取り出そうとした。

「じゃあ、少しだけ…」

そう言って。目をキラリと光らせた氷河。

「!!!」

カミュが何かを言うよりも早く、氷河は目的を果たして自分の唇をちろりと舐めていた。

「すごく甘かった。ご馳走さま」

数秒遅れで、カミュの頬が真っ赤になる。

氷河は、自分の唇を奪ったのだ。
しかも、一瞬の間に舌まで絡めとられ…。

「氷河!!!」

「何です? 我が師・カミュ」

しれっと答える愛弟子に、カミュは言葉を飲み込み俯いてしまった。
その耳は髪の色よりも赤い。


続く。

 

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